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『インハウスで活躍する』 第5回 細川陽子君(アクセンチュア株式会社)

2014.07.10


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


第5回は、アクセンチュア株式会社法務部で活躍されている、細川陽子さん(2005年度修了)にお願いしました。細川さんは、インハウスとして、契約業務を中心に経験された後、現在はコンプライアンス業務を担当されているそうです。皆さんが、企業内法務の業務を理解する上で、大いに参考になると思います。



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本塾法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。


 2006年に本塾法科大学院を修了後、翌2007年に新司法試験に合格し、1年間の京都での修習期間を経て、2009年1月に大阪の法律事務所に入所しました。同事務所で3年間弁護士として勤務したのち、2012年2月、アクセンチュア株式会社(アクセンチュア)法務部に入社し、現在に至ります。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。


 アクセンチュアの社内体制は、クライアントの業態別に通信・メディア・ハイテク、製造・流通など5つのグループに分かれ、それぞれの専門分野に特化したコンサルタントが企業の課題解決をサポートしています。法務部は、契約締結段階のみではなく、案件によってはクライアントへの提案活動段階から社内担当者の支援にあたります。アクセンチュア法務部の特徴は、国を超えた連携が日常的に行われる点にあり、世界各国の法規制やノウハウを共有し、クロスボーダー案件に対応する体制を構築しています。
  そのような体制の中、入社当初から約2年間は契約書をレビューする業務を主に担当しておりましたが、今年の4月からはコンプライアンス関連業務や関連会社を含む社内運営等の担当となりました。コンプライアンス等を担当するようになってからはまだ日が浅いため、業務の全体像は把握しきれていませんが、社内規則や倫理等の構築や浸透、経営に関わる運営への関与、人事や総務といった社内の管理部門・海外のアクセンチュアグループとの連携などが主な業務内容です。例えば、最近では、社内監査において指摘を受けた社内規則(ポリシー)違反について、ポリシーに沿う条項が明記された覚書を契約相手方と取り交わしたり、再発防止策の一環としてポリシーの周知徹底を図るメールを全社員に送信したりするなどといった対応策を担当社員や担当部署と共に検討し、実施しました。


弁護士登録はされていますか? 登録の有無は業務にどのように関係していますか?


 登録しています。名刺に「弁護士」と記載はしていますが、登録の有無が直接業務に影響することはほとんどないと感じています。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?


 法律事務所と異なり、社内担当者との距離が近いため、気軽に相談してもらえる関係が築けますと、その相談の中で担当者が疑問に思うところや必要としている情報等、生の声を聴くことができ、インターナルではありますがクライアントである担当者のニーズに沿った法的サービスを提供できて感謝されたときですとか、複雑であったり交渉が難航したりした案件が、最終的に契約締結に至り、プロジェクトチームの一員であると感じられたときなどにおもしろさややりがいを感じます。

 また、こちらも法律事務所と異なる点ですが、法律事務所では、担当者が社内法務部を交え、事実関係や証拠等を整理した上で相談に訪れるのに対し、インハウスの場合、社内で相談を受けた段階では、その案件が混沌の中にあることが多く、その状態で話を聞いて事実関係などを整理していくことにもおもしろさを感じることがあります。

 また、「仕事の面白さ」とは少し視点は異なるかもしれませんが、アクセンチュアはあまり他社では見られない完全フレックス制と週二日の在宅勤務制を導入しており、仕事のやり方がおもしろいのではないかと思っています。よく、家だと誰も監視していないため怠けてしまって仕事の効率が悪いのではないか、などと否定的なことも言われますが、もともと意識の高い専門家の集まりだからか、そのようなことはなく、むしろ通勤時間の節約や外出に際してのストレスの軽減が図れ、とても働きやすい環境が整えられていると思います。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?


 多くの案件では実際にクライアントと契約条件について話をするのは社内の担当者であり、法務部が直接クライアントとともに契約交渉を行うことは多くはありません。そうなると、社内の担当者に自社の主張内容について趣旨とともに理解してもらう必要が生じるのですが、その必要性すらなかなか伝わらないこともあり、そのようなときは自身の力不足を感じます。法律事務所に相談に訪れる人は、話を聞こうと思って来ているわけですから、こちらの話を聞いてもらうために特別の労力をかけることなく真剣に聞いてもらうことができます。しかしながら、社内担当者の中には、ルール上法務部の意見を聞かなければならないから仕方なく聞いている、場合によっては、ビジネスを停滞させる面倒な手続きだ、といった意識のもと、最初から聞く耳を持っていない、むしろ敵対した姿勢の方がおり、そういった方々に対して、話をしなければならない、ということもあります。そのため、どうすればこちらの話が会社を守るにあたってとても重要な話であるかについて理解してもらった上で前向きに聞いてもらうことができるか、ということを考える必要が生じるのですが、この点は、やりがいを感じるところでもあるものの、苦労するところの一つです。

 また、コンプライアンス等の担当になってからは、社内各部署との連携が必要となることが多いのですが、それぞれの部署については、当然のことながらそれぞれの部署の担当者の方が詳しいため、こちらからの提案や依頼等がそのまま受け入れられることは少なく、いかにして双方にとって望ましい結論を導き出すかなどといった社内調整は難しいと思うことがあります。

 業務上、法的に問題となる(可能性のある)契約内容やコンプライアンス違反等があれば指摘をしなければならず、辛い役回りとなることもありますが、上記4にて触れたように、大変であればあるほど、調整がうまくいったときなどは仕事の醍醐味を感じられるところではないかと思っています。


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■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか。また、法科大学院教育には何を望みますか。


 少人数で行う企業法務ベーシック・プログラムやワークショップ・プログラムなどでは、実務家教員の先生方だけでなく、最前線で活躍されている弁護士の方々のお話を聞くことができたことで、インハウスに限った話ではありませんが、なかなか学生時代は触れることのできない実務を身近に感じることができました。さらに、当時受講した科目の中には知的財産法(著作権法)や租税法(相続税法)などのように、実務家教員が担当する授業も多く、そのような授業は実務を交えた講義内容であったため、実際に今学んでいることが実務においてどのように生きるのかといったことまで学ぶことができるなど、多種多様な授業を選択することができたことは、弁護士としての業務内容の幅の広さや深みを知るいい機会となりました。

 法科大学院教育では、法律を学問として深く掘り下げる機会のほかに、このような実際の業務でどのように法律や法律家が関わっているのか、などといったことについて当事者として疑似体験できるような機会があればよりおもしろいものとなるのではないかと素人ながらに思っております。


■ 5年後や10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 現在は管理職未満としてアクセンチュアにて勤務しておりますが、近い将来、仕事をマネージする立場から、今とは異なる視点を持って仕事に関わっていたいです。また、将来的にはインハウスとしての経験を踏まえ、社外から企業をサポートする立場となることも視野には入れておりますが、一つの道に限らず、自分の価値基準を持って信念を貫き、自分が誰であるかを理解し、意識できる人でありたいと思っています。


■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 一言に「インハウス」とは言いますが、その業務は各所属先によって千差万別です。漠然と「インハウス」になりたいという思いだけでなく、より具体的なやりたいことを見つけ、その希望に沿ったところを探し続けてもらえたらと思います。法科大学院を修了して、司法試験に合格後、修習を終えて(終えずに)、すぐにインハウスとなる道もありますが、それだけではなく、様々なところで活躍されている諸先輩方を見ていただけば自ずと分かるように、みなさんにはたくさんの選択肢があります。多くの実務家教員や優秀な仲間に出会える本塾法科大学院は、そのたくさんの選択肢を見つけ、自分の進みたい道を選ぶことのできる有効な場として最大限活用できると思うため、積極的に関わっていってみて下さい。本塾法科大学院で得られる多くの方々との出会いは将来の大きな財産です。

 何をどのように伝えればいいのかと思いながらであったため、みなさんの参考になる内容となったか心配しておりますが、一つの選択肢としてみなさんの心に残るものがありましたら幸甚です。ありがとうございました。

 最後になりましたが、本塾法科大学院を通して出会えた仲間と切磋琢磨し、将来法曹界で必ずやご活躍されるであろうみなさんを、心より応援しております。


■ ありがとうございました。今後のさらなるご活躍、期待しています。

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