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『未修者コースから羽ばたく-社会人経験者-』第2回稲垣奈津子君(東京国税不服審判所)

2018.05.24

 慶應義塾大学大学院法務研究科は、開校した2004年4月以降、未修者コースに多くの社会人を受け入れてきました。

 ここでは、社会人を経験して、塾大学院法務研究科を修了して、再び社会に羽ばたき、活躍する修了者を紹介していきます。



 第2回は、2014年3月に塾大学院法務研究科を修了した稲垣奈津子さんをご紹介しましょう。
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■ 本塾法科大学院入学までのご経歴を簡単に教えてください。


 立教大学経済学部経営学科を卒業し,監査法人で公認会計士として国内の上場企業等の会計監査に従事していました。


■ 本塾法科大学院に進学した理由,きっかけなどを教えてください。入学前の段階での,卒業後のキャリアについてのイメージも,合わせて教えてください。 


 企業活動においては会計と法律や税務は密接に関連していて、会計と絡んで法律や税務に関するご質問をいただくことも多かったのですが、最終的には専門家の方に確認してくださいと言わざるを得ないことがもどかしく、いただいた質問に対して責任をもって回答できるようになりたい、そのために法律の勉強をしたいと思ったことがきっかけです。しかし、当時は結婚して子供が生まれ、仕事と家事・育児をこなすだけで精一杯の生活だったので、仕事をしながら勉強するのは不可能と考え、退職して勉強に専念しました。卒業後は企業に対するアドバイスができるような、いわゆる企業法務系の法律事務所で働くイメージを持っていました。

■ 現在のお仕事の概要を教えてください。
 

  東京国税不服審判所で国税審判官(特定任期付職員)として勤務しています。国税不服審判所は国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対して裁決を行う機関で、税務行政部内における公正な第三者的機関として、適正かつ迅速な事件処理を通じて、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営に資することを使命としています。
 主な仕事は、審査請求事件の担当審判官又は参加審判官として調査・審理を行い、合議に基づいた議決書(裁決の基となるもの)の作成を行うことです。国税に関する法律に基づく処分の取消訴訟は、原則として審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することができないこととされており、訴訟にいたることなく事件の解決を図ったり、訴訟に移行した場合に事実関係の明確化に資するように努めています。


■ どんなところにお仕事の魅力を感じますか。
 

 主張・争点の整理などの過程では、審査請求人ご本人と面談したり、職権で調査をすることがあり、これらは弁護士の仕事に近い部分があるように感じます。一方で、議決をする段階では、証拠から事実を認定しこれらを法律に当てはめていくので、裁判官の仕事に近いように思います。ひとつの仕事で異なるタイプの経験できるのは貴重な体験だと思います。また、審判所には国税プロパー職員の他、弁護士・税理士・公認会計士といった民間から登用された特定任期付職員に加え、裁判官・検察官の方も出向されているので、様々なバックグラウンドの方と交流することができるのも魅力の一つです。


■ 逆に,どのようなところにご苦労がありますか。

 様々なバックグラウンドの人がいるということは、逆に価値観が全く異なる人の集まりであるということでもあります。つまり、自分にとって常識であることが、他の人にとっては常識ではないという状況が往々にして起こるので、自分の意見が上手く伝わらないもどかしさを感じることがあります。しかしこれらは丁寧な議論につながり、多角的な視点で事案を検討することにつながるということの裏返しでもあると思っています。


■ ご自分のバックグラウンドは,現在のお仕事に生かせていますか。


 審査請求人との面談などの場面では、公認会計士としてクライアントの方からお話を伺うような経験が活かせていると感じますし、事案によっては法人の決算書なども検討することがありますので、現在の仕事に活用できていると思います。また、最近公認会計士の方向けの研修講師をさせていただく機会がありました(写真はその時の様子です)。公認会計士の方にもできる限り関心を持っていただけるよう、自身の経験から紹介する裁決事例を選ぶといった形でも役に立っていると思います。


■ 本塾法科大学院で学んでよかったこと,仕事の中で生かせていることなどについて教えてください。


 在学中はとても多くの先生方にお世話になりました。特に最初の司法試験で失敗したとき相談に乗っていただいたり、ここで止めるのはもったいないと背中を押してくださった先生方には、本当に感謝しています。
 また、在学中は授業の予習・復習で多くの題材が与えられ、法律をまったく勉強したことがなかった私は先生方のおっしゃるとおり、まずは基本書を読み、判例・裁判例を調べ、自分なりの答えを用意するといった作業を繰り返していましたが、現在の仕事でもこれと全く同じような作業をしています。これらは、時間は掛かるけれども適切な結論を導くために必要な作業ですが、法科大学院で基本をきっちりと学んでいなければ、きっと今の仕事でもっと苦しんでいたのではないかと思っています。


■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 私の国税審判官(特定任期付職員)としての任期は3年(更新の可能性もあります)ですが、その間に様々な事案に出会い、税務・税法のスペシャリストになれる(はず)と思っています。そしてその後は、当初思い描いていたように、会計と法律と税務をワンストップでアドバイスできるようになれていればと考えています。


■ これから入学を考えている社会人の皆さん,現在在学している社会人出身者の皆さんに,メッセージをお願いします。


 いわゆる資格試験というのは、一生懸命やったから受かるというものでもなく、頑張っても残念な結果となってしまうことも当然あります。けれども、勉強したことは絶対に無駄にはなりませんし、法科大学院ほど濃く勉強ができる環境はなかなかないと思います。社会人として地位や収入があればあるほど、新しいことにチャレンジするのは難しいと思いますが、少しでもやりたい気持ちがあるのであれば、ぜひ一歩踏み出してほしいと思います。他では味わえない充実した日々が待っています!


ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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