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『インハウスで活躍する』 第6回 萩原新君(日本ヒューレット・パッカード株式会社)

2014.07.28


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


第6回は、日本ヒューレット・パッカード株式会社法務・コンプライアンス統括本部で活躍されている、萩原新さん(2007年度修了)にお願いしました。萩原さんは、業種の異なる2つの会社でインハウスとして活躍してこられました。今回は、そのご経験も踏まえて、皆さんへのアドバイスをお願いしました。



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本塾法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。


 法科大学院修了後、司法試験に合格し長崎で司法修習をしました。2010年1月に前職の化学薬品の会社に入社しました。同社で3年半勤務後、現在勤務している日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社しました。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。


  当社はアメリカに本社を置くヒューレット・パッカード社の日本法人で、ITに関する製品・サービスの販売・提供を行う会社です。

 具体的には、パソコン、タブレット、プリンター、サーバー、ストレージといったハードウェア製品やソフトウェア製品の販売、アプリケーションの設計・開発、ITインフラの構築、IT製品の保守等を行っています。

 私はその中の特定の事業部門の契約書作成や交渉を担当しています。営業チームや顧客へサービスを提供するチームと取引やビジネスプランについて議論しながら、契約書作成・交渉を行っています。


弁護士登録はされていますか?


 弁護士登録をしています。

 登録の有無が一番関係する業務は訴訟業務だと思います。前職では外部の弁護士と共同受任して訴訟を担当しました。自分から主張や証拠について提案したり、証拠として提出する陳述書を作成したりしていました。

 契約交渉業務においても、登録していることが生きていると思います。登録することで、契約の相手方が自分の主張、特に法的な主張に耳を傾けてくれやすくなっていると感じます。もちろん、それだけで相手が自分の主張を受け入れてくれるわけではありません。しかし、交渉の前提としてまず自分の主張を聞いてもらえなければならないわけで、その際に登録していることが1つのサポート要因になっていると感じることは多いです。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?


 企業内弁護士は、弁護士でありながら、その会社の社員として会社のビジネスに内部から深く関わることができるところが魅力です。では、「内部から深く関わる」とはどのようなことなのか、ご紹介します。

 私の会社では、法務担当者と営業部門等の関連部署の担当者とがそれぞれの専門知識を活かし、知恵を出し合いながら、契約内容を考え、他社との受注競争に挑む仕事スタイルとなっています。具体的には、各部門の担当者から取引内容や戦略を聞き、私はそれをベースに契約書を作成します。私からは例えば、「今回の業務では〇〇の点が重要になるから、この条項を入れた方が良い。」といったアドバイスをします。

 営業担当者に同行して客先に出向き、契約内容について説明したり説得をしたりすることもあります。その説明や説得にあたっては、それまでの交渉の経緯を参考にします。「このお客様は〇〇の点が気になっているようだから、このように説得した方がよいのではないか。」といったアドバイスをして、関連部署とディスカッションをしながら契約交渉の方針を立てます。

 ときには、一刻も早く契約をまとめたい営業担当者と、契約内容を精査したい私の間で議論になることもあります。しかし、そういったことを乗り越えながら会社を背負って立つ当事者の一人として、契約を通じて取引をまとめる作業はとてもやりがいがあります。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?


 法的な事項の説明の仕方です。

 契約の仕事は営業担当者等と連携しながら行うため、社内の他部門に契約内容についてわかりやすく説明する必要があります。しかし、お互いの専門分野が違うので、理解してもらうのに苦労することがあります。例えば、「危険負担」はよく質問を受ける事項の1つです。どのように説明をしたら取引先に受け入れてもらえるのかを念頭に置きつつ、できるだけ平易な言葉で説明すること、その条項が取引上どのような意味を持つものなのか理由をもって説明することを心がけて仕事をしています。


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■ 2社でインハウスの経験をした感想を教えてください。


 私は業界の全く違う2社で企業内弁護士として働く経験を持つことができました。前職は化学薬品業界、現職はIT業界です。前職でも現職と同様、契約業務を中心に行っていました。

 2つの会社で契約業務を担当して気が付いたことは、業界や会社が異なると同じ業務でも求められるもの、重視すべきものが違うということです。

 会社により取り扱う商品が違いますので、契約の法的性質としては売買契約や請負契約である点で同じであっても、その内容には違いが出てきます。例えば、品質保証期間というのは、前職で取り扱っていた薬品と現職のパソコンのような機械とでは違いがあるということはイメージを持っていただきやすいと思います。また、会社によってビジネス方針が違いますから、その方針に合わせて盛り込む条項にも違いが出てきます。

 この経験から学んだのは、会社のビジネスを理解することの重要性です。契約書にはその会社のビジネスや商品の特性を反映させなければなりませんから、これらの理解なしには作成することができません。そのためには、他部門とのコミュニケーションが不可欠です。営業部門や商品開発部門の人から製品の内容や特徴、業界のことを教えていただくことが多いです。また、理解を助けるために会社の専門分野の勉強を自主的にすることもあります。例えば、前職は化学関係の会社でしたから、有機化学を勉強しました。現職では、クラウド等の最新の IT トレンドの知識を追いかけるようにしています。

 会社のビジネスを理解するというのは一朝一夕にはできません。日々の業務を通じて、少しでも早く、そして詳しく理解できるよう努めています。


■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?


 法律の知識はもちろんですが、法科大学院で学んだ論理的思考力、リーガルマインドといった法律家としての「能力」が職務に生きています。

 私の在学中の経験では、3 年生の時に行った民事法総合、刑事法総合の授業がこの「能力」を培うのに有益な授業でした。これらの授業では、具体的な事例をそれまでに習った民事系、刑事系の総合的な知識を使って検討し講師とディスカッションすることが求められました。また、授業で用いる事例は難しいものが多かったので、その授業の準備のために友人と議論をすることもよくありました。そうしたディスカッションや議論を繰り返すことにより、論理的思考力やリーガルマインドが自然と身に付いていったのではないかと感じています。

 法科大学院では、法律や契約の条項に具体的事実を当てはめて論理的に考えて結論を出すことを学びますが、契約の仕事ではそれに加えて、具体的事実から論理的に考えて適切な契約条項を作成することが求められます。さらに、交渉相手の会社から契約の修正案が提示された時には、相手方の修正の意図、それに対してどのようなカウンター提案をするのが適当なのかを、契約書の文言からだけではなくその背後にある様々な事実から論理的に考えることも求められます。私の中では、これら契約の仕事で必要となる能力は、法科大学院で学んだ論理的思考力、リーガルマインドがベースになっています。したがって、法科大学院での経験が、私の現在の業務に大きくプラスに働いていることは間違いありません。

 論理的思考力やリーガルマインドを身に付けるのは大変難しいことです。しかし、私は法科大学院というのは、「知識」だけではなく、そうした法律家として欠くことのできない「能力」を身に付けることができる数少ない場であると思います。なぜなら、これらの「能力」は 1 人で勉強するだけで身に付くものではなく、法律家の教員による適切な教育や法律家を志す仲間との議論によって初めて培うことができるものだからです。したがって、法科大学院には、講師の方や学生同士が具体的事例をディスカッションすることの重要性をご理解いただき、そのための機会を多く提供することで、学生の皆さんが論理的思考力やリーガルマインドを身に付けるのをサポートしていただきたいと思っています。

 また、学生の頃から契約書作成に親しんでいると、実務に出てから非常に有益であると思います。企業法務のカリキュラムの1つとして、契約書作成の授業を設けてはいかがでしょうか。


■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 法律家が活躍できるフィールドは法曹界だけではありません。なぜなら、法律家は法律を知っているということだけが強みではないからです。私は法律の「知識」よりもむしろ、法律家が身に付けている論理的思考力やリーガルマインドという「能力」こそが、法律家の最も大きな強みであると思っています。

 インハウスとして活躍したいと考えてくださっている皆さんには、そうした能力を法務以外の分野でも発揮できる人材になっていただきたいと思っています。法律家としての能力を様々な分野で発揮して会社のビジネスの発展に貢献する。これこそがインハウスロイヤーの使命と私は考えています。


■ ありがとうございました。今後のさらなるご活躍、期待しています。

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