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『インハウスで活躍する』 第4回 栗田亮君(金融庁)

2014.05.30


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


これまでは、企業で活躍されている先輩たちをご紹介してきましたが、第4回は、金融庁監督局で活躍されている、栗田亮さん(2006年度修了)にお願いしました。



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本塾法科大学院修了後、金融庁に就職されるまでを簡単に教えて下さい。


 私は、司法試験合格発表直後に合格者向けに実施される人事院主催の国家公務員登用試験を受けて、総合職の行政官として金融庁に入りました。

 私が法曹以外の道を志した理由は、自分は法の思想を探求したいと思って来ましたが、司法試験に合格して初めて、法曹のみに道を限定したくはないと思ったことです。自分の世界を個別の紛争に限定せず、より広い世界に目を向けてみたいと考えたことにあります。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。


 私は、行政官として、金融庁監督局で働いています。

 金融庁には、大きく、法令担当部局、監督部局、検査部局と国際交渉を担う部局がありますが、私は、監督部局にいて、部局内の企画調整を担当しています。

 監督部局には、メガバンクや地域金融機関、証券会社等と実際にやりとりする部署がありますが、これらの背後にあって、監督部局が向き合うべき課題について、全担当部署を総括し、監督部局の窓口としての役割を担っています。

 例えば、監督上の施策の企画立案、国際的な提言への対応、金融機関のコンプライアンスや財務の健全性の確保、金融仲介機能の発揮、地域経済活性化等多岐に渡る課題について、局内全課室と対話をしつつ方針を定め、他部局や他省庁、業界団体等と議論をしています。


弁護士登録はされていますか? 


 業務には関係しないため、弁護士登録はしていません。ただ、海外当局には、法律家が行政官として採用されているケースが多く、弁護士資格は、国際的な対話を行う際に、コミュニケーションを円滑に進めたり、国際機関への出向の機会の拡大に繋がったりするかもしれないと想像しています。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?


 法的な発想を良く使うところに一つの面白さがあります。例えば、2008年のリーマンショック以降、G-SIFIs(Global Systemically Important Financial Institutions=グローバルなシステム上重要な金融機関)、証券化商品、シャドーバンキング等に係る金融規制について、国際機関から様々な提言が出されています。

 国際的な提言を監督上の方針に盛り込むにあたっては、既存の法体系にどのように位置づけられるかを議論します。うまく位置づけられる場合は、国内の実態を踏まえて、細則を策定します。位置づけられない場合には法改正が必要になります。

 こうした議論は、銀行法や金融商品取引法といった法令の理念を踏まえ、個別の条文を体系的に解釈し、海外の議論を国内法的に翻訳する作業にあたります。その際、グローバルに展開する金融取引と実体経済への影響を想像しつつ現行法の理念を踏まえ、どのような実態をどのような文言で捉えるのか、立法者が本質的に捉えたい事柄・価値は何かを発見していきます。議論を通した法創造の作業であり、規制の本質を考える点で面白さがあります。

 私自身で特徴的なのは、これまで出向を多く経験したことです。例えば、東日本大震災直後、内閣官房に出向し東京電力の経営財務調査にかかわりました。また、民主党から自民党に政権交代した際、内閣府に出向し、新政権のテーマであった地域経済活性化のため、企業再生支援機構の抜本改組にかかる法改正作業を担当しました。その他司法研修所で司法修習したことを含めれば、6年目にして約10箇所の部署を回ったことになります。社会の動きを肌で感じられる部署が多くありました。様々な部署で得た経験を基に、社会を色々な視点から見られることが面白いです。


<写真:米国・ニューヨークの地下鉄

 ウォールストリート駅にて>

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■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?


 自分の担当業務をきちんと意義付けて、今これをすることが大切なんだと心に響く感覚を手に入れることに苦労しています。金融は、部分に過ぎません。国の財政や地域経済の疲弊等向き合うべきものを長期的スパンで全体感を持って捉えた上で、その部分としての金融行政にどういう意味があるのかを考えるのが難しいです。そのためには、金融論だけでなく、歴史や世界の広がり、マクロ経済や経営等、色々と勉強しなければなりません。法律の勉強だけをやっていたため、難儀しています。


■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?


 法科大学院のときに学んだことで一番良かったことですが、ある先生から、毎度「教科書の通り一辺倒な記載だけ書いてなにか意味があるの? 相手を説得するためにやっているのでしょ? そんな記述をもらっても心に響かない。あなたの心には響いているの? 相手の文脈を踏まえないと説得できない。それには事案に即して論じることが大切なんじゃないの?」といったことを繰り返し言われていました。相手の文脈に即して「説得する」、そのために「心に響く」材料を探す、これは今でも大切にしています。

 また、慶應ロースクールのプログラムは多彩でした。金融の授業では、世界経済の動きを紹介しつつ、1900年代初頭からの日本の金融の歴史について講義してくれる授業なんかもありました。金融分野で今何が求められているのかを歴史と世界の広がりの中で説明して頂いて、そして今の金融取引に法的にどう向き合うかといった説明があって、とても魅力的でした。法曹の世界から一歩踏み出した分野についての授業が多く有意義だったと思います。

 法曹にしても部分に過ぎません、それが長い歴史や世界の広がり、目の前の社会、経済活動、環境、金融といった全体の中でどういう意味を持つかきちんと学べる機会を提供してくれていました。

 自己反省も含みますが、ロースクール生一人一人が「学ぶ」ことを通して「心に響く」材料を探すという姿勢を持っていることを前提として、広く学際的な全体感の中で法曹を捉えるという視点が望ましいのではないかと思います。


■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 5年後10年後、世の中がどうなっていくのか見続けたいです。アベノミクスの先がどうなっていくのか、大都市への産業の集中、高齢化や産業の空洞化等が進行する中で、地域経済がどうなっていくのか、もの作りはどうなっていくのか。今のままの現象を語ってばかりでは、物事は悪い方向ばかり。現象の背後にある思想を見つめられる深い洞察力が欲しいと思っています。

 また、世界の動向は、産業革命を通した欧州の台頭、アメリカの台頭、日本の台頭、BRICSの台頭、そしてアメリカのディクライン。世界では、国という枠組みがぶれていて、欧州とかアジア圏とか色々な経済圏が出来ている中、今後の身近な経済はどうなるのか、そういった全体感の中で、地域経済を見つめて、心に響くことを成し遂げたいなと思います。


■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 今、自分のやっていることの大切さを意識できないと、弁護士になった後、仕事にコミットできませんし、こんなに苦労して資格まで手に入れたのに仕事がつまらない、という不幸な現象に陥ってしまいます。受かってから考えればいいというのは、将来に借金を負わせるだけです。きちんと「心に響く」感覚を「今」意識することが大切だと思います。

 月並みですが、弁護士法第1条は、弁護士の使命として「基本的な人権」「社会正義の実現」といった言葉を規定しています。どの分野であれ、これを単なる「うたい文句」ではなくて、「心に響く」まで噛み締められるようになれれば、とても素敵だと思います。


■ ありがとうございました。今後のさらなるご活躍、期待しています。

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