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『グローバルに活躍する』第10回 黒川 ひとみ君(クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業)

2016.03.23


 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第10回は、クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業で活躍されている、黒川ひとみさん(2007年3月修了)にお願いしました。

■ 塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


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 司法試験合格、司法修習を経て、現在の勤務先に入所しました。東京オフィスで約3年半勤務した後、約1年半のあいだLondon School of Economics and Political Science(通称LSE)への留学とロンドンオフィスでの勤務を経験し、昨年6月に東京オフィスに戻りました。

 勤務先のクリフォードチャンスは、英国ロンドンを本拠地とする世界25カ国に35のオフィスを有する法律事務所で、日本でも幅広い分野で法律サービスを提供しています。

 入所のきっかけは、塾法科大学院在学中に現在の勤務先で二週間のサマークラークを行い、「世界に通用する日本の弁護士を育てる」というポリシーに共感したこと、外国法事務弁護士と日本法弁護士とが混ざってチームで仕事をする環境に惹かれたことです。振り返ると、学部在学時にドイツ語インテンシブの授業を履修したことや内閣府の国際交流事業に参加した経験から、異文化コミュニケーションに携われる仕事に興味があり、法曹の仕事の中でも渉外法務に関わりたいと思っていました。



■ 現在のお仕事の概要を教えて下さい。 


 現在のところ、各種規制(割と多いのは金融規制)に関する日本法のアドバイス、訴訟・紛争・不祥事対応を主に扱っています。渉外法務というと、ファイナンス関連の契約交渉やM&Aなどの民法や会社法を使う仕事を想像される方も多いかもしれませんが、私の扱っている分野は行政法と刑法に関連することも多いです。例えば、最近では、以下のような分野についてクライアントに日本法のアドバイスを提供しました。

• 日本における金融機関の破綻・再建処理の枠組み
• EUのBRRDで定められているベイルイン条項の日本法における有効性
• 金融機関の守秘義務、個人情報保護法制
• 海外の金融機関が日本の機関投資家宛に有価証券やファンド持分を販売する際に適用される規制
• 日本の対当局交渉、当局検査対応、内部調査対応
• 刑法の「賭博」の意義、贈収賄規制、没収・追徴の範囲
• 反マネーロンダリング規制、本人確認方法
• 日本政府が課している経済制裁
• 訴訟、紛争絡みの契約関係処理、交渉

 他方で、日本企業の海外活動に関する案件も扱っています(例:日本企業が海外で当局調査の対象となった場合の当局対応)。その際には、外国法の知識が必要となることもあります。クライアントの目指していることは何なのかを良く理解して、当該外国の法制でその目的を達成するにはどうすれば良いのかという観点から海外のオフィスに正しく指示を伝えるためです。


■ 弁護士登録はされていますか? 登録の有無はお仕事にどのように関係していますか?
 

 弁護士登録をして、日本法のアドバイスを提供しています。そもそも、クロスボーダーの案件であっても、日本の弁護士が担当し、責任をもって意見を述べることができるのは日本法に関する事項です。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

 国境や言語をまたいだ案件で高品質のサービスを提供することです。そのために、日々、異文化コミュニケーション力と日本法の法曹としてのスキルを磨いています。外国のクライアントに対して、日本法や日本の商習慣・慣習、訴訟手続を、英語で適確、明快に説明するのはとても面白い仕事です。自分が日本法を本質から理解していないと、英語で上手く説明できないので、日本法の理解も自然と深まりました。例えば、署名(サイン)文化圏のクライアントに、日本における印鑑の役割や種類、印鑑登録の仕組み、文書の成立の真正の推定の仕組みを説明するときは、自分自身が本質を抑えていないとクライアントに理解して貰えません。さらに、日本の訴訟手続や規制法を理解してもらうためには、基本的な制度の仕組みから説明する必要があります。直訳してもほとんど意味をなさないですし、専門用語ばかり使っても相手に伝わるわけでもありません。問題点を自分の頭で整理して、自分の言葉で語ることが必要です。また、行政庁はどの国でもドメスティックな文化・慣習を色濃く残しているところですが、外国のクライアントが日本の当局とのコミュニケーションをスムーズに進めるためにお手伝いをする際や日本のクライアントの外国当局案件に関与する際には、各国の当局とのコミュニケーション方法の違いが垣間見えてとても面白いです。

また、所属先のグローバルネットワークを活かした案件に関わると、別の面白さがあります。例えば、日本の企業の海外当局調査対応案件であれば、当該国の海外オフィス担当者と密に連絡を取り合い、議論して(時には日本時間の深夜になります)、日本のクライアントの正当な利益を守れるように自分からリードをとって取り組めることは、各国に「同僚」がいるグローバルファームならではの強みだと思います。

 どのような案件であれ、クライアントから「ありがとう」と言われるのは、やはりとても嬉しく、やりがいにつながります。一回仕事をしたクライアントから次の仕事をいただけると忙しくても仕事のモチベーションになります。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?

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 面白さの裏返しになりますが、国境や言語をまたぐとそれだけコミュニケーションミスも生まれやすいことです。

また、所属先はグローバルファームとして、事務所全体に関する基本的な事項については世界的に統一されたルールに従って運営されています。このような世界的なルールの実際の運用にあたってどれだけ地域性が考慮されるかについては、戦略性と柔軟性を兼ね備えた対応をすることの大変さ、難しさを実感しています。





■ (どの国の、どの学校・コースへの留学かも含めて)留学に関して、留学して良かったことや留学で身につけたこと、一方、留学先で苦労したことなどお聞かせ下さい。また、留学に関して、どういった準備をすれば良いかアドバイス頂けませんか。



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 2013年秋からイギリスのロンドンにあるLSEのLLMコースに留学しました。留学中は、英国法だけでなく、EU法やヨーロッパ大陸諸国の考え方にも触れられたことは収穫でした。より複眼的な物の見方ができるようになったと思います。修士論文にあたるdissertationの指導教授との議論は、アカデミックな刺激に満ち溢れており、特にcommon lawの考え方のエッセンスを学べたことは留学の大きな収穫です。留学先で苦労したのは、勉強以外の誘惑が多い中での勉強時間の確保です。

 留学準備は、仕事をしながら準備時間を捻出するのがとにかく大変でした。早めに準備を始めることをお勧めします。


■ 海外では何年ぐらいお仕事をされましたか? また、海外ならではの苦労や工夫などお聞かせください。


 当初は弊事務所ロンドンオフィスで一年以上勤務する予定でしたが、東京オフィス側の都合で約半年の勤務後にやむなく帰国しました。

 ロンドンオフィスでは、英国法準拠の証券発行案件やヨーロッパの金融規制対応案件に従事しました。同じファームの中なのでお客様扱いをされることもなく、他のイギリス法資格のアソシエイトに混じって、同じように仕事を任せて貰えました。とはいえ、法律は言葉が勝負なので、英語ネイティブとは全く同じようには出来ず、何度も歯痒い思いを味わいました。しかし、制定法の条文解釈力や法律文書のドラフティング、クライアント対応といった点は、ロンドンオフィスの上司が私のスキルを評価してくれて、日本法で培った経験が思っていた以上にそのまま活かせたと思います。


■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか?


photo22.jpg 仕事で最も良く使う外国語は、英語です。全体での英語と日本語の比率は、7:3から8:2位ですが、アウトプットに限定すれば9割以上が英語だと思います。法律英語は、日本語で日本法の条文、判例、関連文献などを読んで、英語でアドバイスしたり、交渉したりする業務を通じてon the job trainingで身につけました。日常英語は、東京でも、外国人の同僚との雑談や職場のスキー旅行の参加などを通じて話す機会はたくさんあり、入所後割とすぐに話せるようになりました。ロンドン在住時は、多国籍の留学生とフラットシェアする中で大喧嘩をしたり、話し合いをしたりしましたし、趣味の仲間とクライミング談義に花を咲かせたり、劇場の幕間に感想を話し合ったりもしました。そういった経験を通じて会話の幅を広げることができました。私の場合、英語を使いこなせるようになるための環境に関しては、本当に恵まれていたと思っています。英語は仕事のスキルの一つなので、これからも意識的に英語力を高めていきたいと思います。


■ 塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか?


 井田良教授のご指導のもと、リサーチペーパーを執筆しましたが、日本法の問題についてリサーチして簡潔にまとめる能力は、日々の仕事の中で役に立っています。

授業に関しては、六車教授の環境法の授業が印象に残っています。環境法は履修者がそれほど多くなかったため、少人数で法令や裁判例だけでなく政策を議論することができました。実務においても、法律を解釈するだけでなく、現行制度の問題点を発見して、新たな政策・制度設計を提言する、という視点が役に立っています。

■ 塾法科大学院では、英語のみで学位取得が可能な日本版LL.M.(法務修士)の開設を計画中です。アジアを視野に入れたビジネス法務を英語で学ぶことを基本とし、日本法に関心のある留学生や、グローバルな領域で活躍することを目指す日本人法曹を主たる対象としています。1年間のコースで、そのうち半年をアメリカやアジアの提携ロースクールに留学することも想定しています。日本版LL.M.の授業内容や方向性などについて、期待するところ、要望などお聞かせくださいませんか。


 チャレンジングな試みで注目していきたいと思っています。単に英語で日本法を学ぶだけではなく、米国・EU、アジア諸国と日本の比較などの比較法の視点を取り入れることで、より面白いカリキュラムになるのではないでしょうか。


■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 入所してから現在まで、振り返ってみると担当した仕事のすべてがとても奥深くやり甲斐のある仕事でした。したがって、5年後も10年後も、国境と言語をまたぐ仕事で、現時点では想像していないような新しい仕事に挑戦していたいと考えています。そして、塾法科大学院で教えるなどして後輩に還元したいと思っています。

■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 やりたいと思ったことにどんどんチャレンジして下さい。塾法科大学院で身に付けるリーガルセンスを基礎に世界に羽ばたいて下さい。


ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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