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『グローバルに活躍する』第7回 清家裕君(環境省)

2015.10.26


 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第7回は、環境省で活躍されている、清家裕さん(平成19年3月修了)にお願いしました。

■ 塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


②COP18会議場にて (500x434).jpg

[入省に至る経緯]

 慶應義塾大学法科大学院在学中に、当時の国家公務員Ⅰ種試験(現在の国家公務員総合職試験)を受験しました(※)。

 もともと社会が抱える課題を解決する仕事に就きたいと考えていたこと、法科大学院の授業の中でも特に政策的側面の強い科目に魅力を感じたこと、そして国際社会とも関わることのできる進路に進みたいと考えていたこと、が受験のきっかけでした。
 試験に合格し、その後の官庁訪問(いわゆる就職活動)を経て、環境省への入省を決めました。数ある省庁の中で環境省を選んだのは、公害、地球環境問題、原子力や放射性物質に関わる問題など、将来世代を想いながらそれぞれの時代が抱える難しい課題を引き受けてきた環境行政の使命に共感したことに加え、環境問題の国際性に惹かれたためです。


(※)現在では、国家公務員総合職に院卒者向けの区分や新司法試験合格者向けの区分が新設されており、私が受験した時代よりも法科大学院生が国家公務員を目指しやすくなっていると思います。


[入省後]
 入省1年目に廃棄物行政を担当した後、2年目~6年目に地球環境局という部署でグローバルな環境問題を担当しました。この期間は外務省に併任がかかり、外交官としての立場にも立ちながら国際交渉に取り組みました。
 その後、省全体の総括をする大臣官房という部署で新卒採用と法令審査の仕事を2年半担当し、現在は生物多様性に関する法律の改正作業に携わっています。



■ 国際交渉を担当されていた当時のお仕事の概要を教えて下さい 


①COP17会議場にて同僚とともに (500x268).jpg

    会議場にて同僚とともに(※筆者左から2人目)        

[仕事の概要と業務の様子]

 私が国際交渉を担当していたのは2009年から2013年です。具体的には、気候変動や持続可能な開発(sustainable development)、越境汚染など、一国では解決することが難しい地球規模の環境問題を担当していました。
 最も重要な仕事は、年に複数回開催される公式の国際会議に参加して、各国との間で合意文書をまとめていくことでした。代表的な会議はいわゆる「COP」と呼ばれる   

    条約の締約国会合で、気候変動枠組条約の

   場合には毎年11月~12月に開催されます。
 また、そうした公式の会議と会議の合間の期間は、米国、EU諸国、中国、インドなどの主要国へ個別に出張して意見交換をしたり、東京で日本政府としての交渉戦略を練ったりする毎日を送っていました。
 出張が多く、また海外でも国内でも関係者間の調整を図る仕事が多かったため苦労もありましたが、充実した毎日でした。


[印象に残っている国際会議]

 せっかくの機会ですので、印象に残っている国際会議を2つご紹介します。

 一つは、2011年5月にニューヨークの国連本部で開催された国際会議です。この年の3月に東日本大震災が発生し、それから2ヶ月後の会議でしたので精神的にやや落ち着かない出張だったのですが、会議の議場で多くの国の交渉官が日本の状況を心配し、寄り添う姿勢を示してくれました。そうした声を耳にし、とても心強く、またありがたく思ったのをいまでもよく覚えています。その会議の議場で発言する機会があったので、冒頭、日本政府を代表して、震災に対する各国の支援に対してお礼の気持ちを述べました。
 もう一つは、2011年の年末に開催されたCOP17です。当時、気候変動の国際交渉は先進国と途上国との間の対立が根深く、ある種の行き詰まり状態に陥りかけていました。しかし、COP17では、各国の閣僚参加の下で会期を2日延長する厳しい交渉を行った結果、先進国・途上国二分論を乗り越える革新的な決定が採択され、再び気候変動交渉が前に進み始めるきっかけになりました。このような、大きな転換点となる会議に参加し、交渉の現場に立ち合えたことは、感慨深い経験でした。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

 冒頭で「社会が抱える課題を解決する仕事をしたいと考えていた」と申し上げましたが、国家行政の仕事はまさに社会が抱えている課題について「どうしたら解決できるか?」「どうしたらより良くなるか?」を考え、行動に移す仕事です。安全保障、社会保障、地域活性化、エネルギー、地球環境、そして東日本大震災からの復興など、今の社会には難題が山積しているからこそ、国家行政の責任は重いと感じています。
 また、様々な立場の方々と関わりながら仕事ができることも面白さだと思います。民間企業や市民の方々はもちろんのこと、国の政策を進めていくためには、国会、地方自治体、研究者、NGO、他国政府や国際機関など、様々なステークホルダーとの連携が不可欠です。そういった様々な立場の皆さんと一緒に物事を動かしていくのは、調整の苦労もありますが、面白い作業です。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?

 難しい課題が多く、かつ利害関係者も多いため、調整が思うように進まないことが多々あり苦労します。また、残業も比較的多いので決して楽な仕事ではありません。
 加えて、これは苦労というわけではないですが、国の行政官は自らの担当する政策について誰かから直接「ありがとう」とお礼を言われる機会が少ないので、そうした意味では個人の権利救済を図る法曹の仕事を羨ましく感じることもあります。


■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか? 


 仕事で使う外国語は英語です。私は帰国子女でもなければ留学経験もありませんので、いわゆるon the job training で、国際交渉に長けた上司の背中を見ながら少しずつ英語を身に着けました。もちろん苦労や失敗も沢山経験しました。例えば、国際会議で他国と会談する際には、その内容を記録として残しておくことも地味ながら重要な仕事なのですが、会議のメモを正確にとることは日本語でもそう簡単ではないので、それを英語で求められるのは大変でした。また、国際交渉の現場において合意文書を作り上げていく作業の中で、各国が提案する言葉のニュアンスの違いなどが十分理解できず不安になったこともありました。
 英語については今でもそれほど自信はありません。しかし、多国間交渉の現場では英語が母国語ではない国の交渉官がみな必死に自分なりの英語を話し、伝えようと努力していますので、私も負けないように語学力向上に向けた努力を続けていかなければならないと思っています。


■ 塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? 


 「法律による行政の原理」が行政法の大原則であることからも想像できる通り、行政の仕事は常に法令と関わります。実際に法律を作ったり運用したりする仕事に携わったこともありますし、国際交渉の現場でも国際法の知識が求められます。その意味では、法科大学院で学んだことの全てが行政の場で活きていると感じています。
 その中であえて一つ挙げるとすれば、やはり環境法の授業でしょうか。環境法は履修者がそれほど多くなかったため、少人数で腰を据えて政策を議論することができました。また当時は一緒に履修していた友人達と国立マンション訴訟や豊島産廃不法投棄事件などの現場にも足を運びました。こうした、深い思考や現場を大事にする姿勢は行政の仕事においても大切です。



■ 塾法科大学院では、英語のみで学位取得が可能な日本版LL.M.(法務修士)の開設を計画中です。アジアを視野に入れたビジネス法務を英語で学ぶことを基本とし、日本法に関心のある留学生や、グローバルな領域で活躍することを目指す日本人法曹を主たる対象としています。1年間のコースで、そのうち半年をアメリカやアジアの提携ロースクールに留学することも想定しています。日本版LL.M.の授業内容や方向性などについて、期待するところ、要望などお聞かせくださいませんか。


③国連本部会議場にて (300x225).jpg

 今後、様々な仕事において国際社会との接点は増えていくと思いますし、むしろ日本はより積極的に海外との交流を深めていくべきだと思いますので、この慶應義塾法科大学院のLL.M.が法律家の世界における国際交流の場の先駆けになるのではないかと期待しています。時代の流れを見据えて新しいことに挑戦していく姿勢が、慶應らしいと思います。






■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


⑤出張先で同僚とともに (500x375).jpg

 入省してから現在までの10年弱は未知の仕事との遭遇の連続でしたが、振り返ってみると担当した仕事のいずれもがとても奥深くやり甲斐のある仕事でした。 したがって、5年後も10年後も、現時点では想像していないような新しい仕事に挑戦していたいと考えています。そして、どんな仕事を担当するとしても、「社会が抱える課題を解決したい」という原点は忘れないようにしたいです。





■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 法科大学院で学んだことを活かすことのできる道は、皆さんが想像している以上に多岐にわたります。
 最初から自分の進路を狭く考え過ぎず、ぜひ、国内外含めて広い視野で仕事を選んで下さい。



ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。


(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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