ホーム > 修了生の活躍 > 『グローバルに活躍する』第3回 渋谷純一君(三井物産株式会社)

入試情報

『グローバルに活躍する』第3回 渋谷純一君(三井物産株式会社)

2015.06.08


 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第3回は、三井物産株式会社法務部米州法務室で活躍されている、渋谷純一さん(2009年3月修了)にお願いしました。

■ 塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


inhouse3_13.jpg

 2009年3月に法科大学院修了後、司法試験に合格しました。その後、司法修習には行かずに2010年1月に現在勤務している三井物産株式会社に入社しました。
 法科大学院卒業後、法律事務所の面接も受けており内定ももらっておりましたが、前職がコンサルティング業界であったこともあり、第三者的な立場でアドバイスをするよりは、案件を作る過程をより重視したいと思うようになりました。そこで、対象は事業会社、とりわけ国際的な仕事ができる環境が望ましいと考えて入社しました。
 入社後は、法務部に配属されアジア大洋州を担当する室に約3年間在籍し、その後、米国に留学し、現在は米州法務室に在籍しております。



■ 現在の業務の概要を教えて下さい。 


inhouse3_23.jpg

 米国・カナダ・ラテンアメリカにおける資源開発案件、M&A案件、インフラ・プラント建設案件、その他のプロジェクト案件、同地域における紛争案件について、プロジェクトスキーム策定、各種契約書類検討、 Legal Due Diligence Study の実行、契約交渉・和解交渉などへの参加、適切な専門弁護士選定など、当社における様々な事業推進について、法的側面からの対応支援をしています。総合商社は扱う分野が広いため、それに伴う法律相談も多岐に亘ります。例えばある一日の業務を見ると、午前中に米国での大きな投資案件に関して営業部と共に米国の弁護士と電話会議をし、午後はメキシコから輸入する養殖用の飼料に関するクレームの対応を部内で協議したり、ブラジルで始まりそうな投資案件の入札書類を修正する作業をしたりするというように、一日の中で扱う商材も国もまったく違う業務を行うことも日常茶飯事です。出張に行く機会も多々あります。出張に行くときは契約交渉か紛争案件の解決の支援を行うことが多いです。ある時は、1か月にインドに3回、イタリアに2回、タイに1回と計6回も出張に行ったこともあります。その年は1年で10回近く海外出張に行きました。

 仕事環境は、日本にいても国際的な気分を十分に味わえます。特にアジアを担当していた時は、チームのメンバーが中国人、オーストラリア人、フィリピン人、香港人、日本人の出向弁護士と私という構成で、チーム内の会話は英語と中国語が基本となっており、仕事内容もさることながら、まるで外国で働いているかのような仕事環境でした。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

 総合商社特有のビジネスの多様性です。ラーメンからロケットまでと言われることもありますが、私が最近担当した案件から言うと、ブラジルの農業経営から米国での航空機エンジン開発までと言い換えることができます。

 入社する前は総合商社の業態はよく分かりませんでしたが(今でも全体を掴むには至っていませんが)、本当に何が来てもおかしくないのが実情です。法務部はその全ての分野をカバーしているので、法律問題も恐ろしいくらい多様です。また、対象国も全世界です。幸い担当地域だけは室で分けられていますが、それでも毎日会社に来てメールを見る度にスリルがあります。たとえば、営業の担当者から「化学品をインドのムンバイ港に運ぶために当社が雇った船がインド洋上にてエンジン故障で止まってしまい、船が港に10日遅れで到着する模様。どういう問題が起こりますか?」という質問が来たとします。パッと頭に浮かぶのは売買契約上の履行遅滞です。そこで、関連契約を取り寄せると、10日遅れでも売買契約上の履行遅滞にはならず一安心。ところが、念のため用船契約を見ると、港に遅れて着くことで船主への延滞料の支払いが必要なことが発覚。しかも金額は1日毎に100万円超の額。どうにか延滞料の支払を免れる方法はないかを考えますが義務は義務です。そこで、最後の手段として不可抗力条項を見ます。エンジン故障そのものを対象とした都合の良い文言はないため、契約上例示してある他の不可抗力の事情に当てはめられないか確認します。そうすると、不可抗力文言には、英語で「災害」の文言がある。ここで、営業に話を聞くとエンジン故障の原因は非常に大きな台風等の影響を受けたためであることが発覚。当時の気象データをいくつか取り寄せると、見事に台風の圏内を船が航行していたことが分かります。船舶の専門家を起用し、当時の風速から考えると、エンジンが停止することも十分にありうるとの結論が出るため、「災害」には非常に大きな台風の影響による故障も含むと主張し不可抗力を宣言することに決定。これは飽く迄も一例ですが、このように、どこから弾が飛んできても、頭にある知識を使い、担当者とコミュニケーションをとり事実関係を確認し問題を解決するという経験を繰り返し積む機会が多く、胆力もつきますし、同時に多くの知恵を学べる点が、仕事の面白さだと思います。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?
 

 面白さの裏返しではありますが、5年以上働いても、やはり全く知識のない商材の見慣れない契約書の相談が突然来て、そのリスクを短時間で分析しなければいけないのは大変です。たとえば、ある日お昼を食べて帰ってくると、「イギリス法を準拠法とする、金(ゴールド)の相場ヘッジの契約書のリスクを今日の業務時間中に教えて欲しい」と突然電話で言われたと考えてみてください。午後といっても、他の投資案件の意向表明書の修正や別の投資案件の電話会議もあったりするので、どこで考える時間を作って、誰に助けを求められるかというような手順をパッと考えなければならず頭が痛くなります。仕事を素早く処理することには慣れますが、どこから手を付けていいかわからないことが合わさると本当に悩まされます。無事終えたときの安心感と納得感は確かに格別ではありますが。


■ 留学に関して、留学して良かったことや留学で身につけたこと、一方、留学先で苦労したことなどお聞かせ下さい。また、留学に関して、どういった準備をすれば良いかアドバイス頂けませんか。

 2013年8月から1年間、米国ロサンゼルスの南カリフォルニア大学のLL.M.コースに参加しました。私は以前イギリスと中国に語学留学をしておりましたが、時間をかけて現地の空気を感じ取ることが留学の利点だと思います。現地の法体系や知識を吸収できたことはもちろんですが、やはりアメリカという国の人々の考え方や文化的背景の一端に触れられたことが一番でした。「グローバル」や「海外」という言葉は我々日本人にとっては日本以外の国々という意味合いが強いと思いますが、日本もグローバルの中にあり、海外から日本の文化や日本人を客観的にみることで、自分のアイデンティティーのようなものが見えた気がします。家族を中心として生活を楽しむ西海岸のアメリカ人を見て、仕事に対する考え方も変わりました。


■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか?


inhouse3_33.jpg

 英語です。基本的には日本で独学で身に付けました。こういうと不思議がられるのですが、独学の方法は映画でした。高校生から大学生の時、英語の字幕つきの映画を繰り返し見て話し方や言葉の使い方を真似することで、基本的な話し方を身に付け、書く方は雑誌を写経するような方法で習得しました。私たちが今日本語を当たり前に話すのは、周りの人の模倣した結果にすぎず、外国語の習得も基本的には同じだと思っています。このやり方は英語以外の言葉にも応用が利きますのでお勧めです。

 外国語を話すことができるようになるという意味ではいいアドバイスがあります。普段から日本語でいいので多くの人と色々な話をすることです。普段日本語でもあまり話さない人が突然外国語になった途端に話せる人になることはないはずなので。司法試験の勉強をしていると、論点に関する議論、試験の不安や将来の法曹としてのキャリアについての話題が多くなると思います。ただ、それだけではなく、なるべく色々な話題を話す訓練をしてみてください。今英語が得意でない人も、いつか得意になったときにその成果を存分に発揮できるように、人と話すことに慣れておくのがいいと思います。


■ 塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか?  
(もし可能なら、授業名を例にあげてご説明願えると幸いです。また、授業ではないけれども、KLSでのこういった出来事が、役に立っている、などでも結構です。)


 「質問を受け、その場で一生懸命考えて短時間で答える」、これは法科大学院で要件事実論の田中豊先生の授業を受けていた頃の光景ですが、現職の仕事中の電話対応も同じです。こういう緊張感を伴いながら頭を使う訓練が仕事の全てで役に立っています。また、渉外法務WPでM&Aについて学びましたが、今思うと実務的なことを教えていただいたのだなと思います。


■ 塾法科大学院では、英語のみで学位取得が可能な日本版LL.M.(法務修士)の開設を計画中です。アジアを視野に入れたビジネス法務を英語で学ぶことを基本とし、日本法に関心のある留学生や、グローバルな領域で活躍することを目指す日本人法曹を主たる対象としています。1年間のコースで、そのうち半年をアメリカやアジアの提携ロースクールに留学することも想定しています。日本版LL.M.の授業内容や方向性などについて、期待するところ、要望などお聞かせくださいませんか。


 とても慶應らしい企画でぜひ実現していただきたく思います。1年間となると何を得られるのかによって興味を持つ方々の層が変わる気がいたします。日本の法科大学院での教育と異なり、米国のLL.M.の1年間で教えられる内容は限られており、米国法の上澄みを広く浅くなぞる程度ですが、1年間を通じて世界中から来る法曹関係者との接点が生まれるという利点があります。是非、多くの留学生と実務家が十分接点を持つことができる環境を作っていただきたく思います。併せて、弁護士だけではなくインハウスの実務的な視点も取り入れてLL.M.らしい多角的な教育を受けられる学校になればと願っております。

■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 短期的には、法律だけではなくビジネスに役立つ総合力を身につけ、問題解決力をより高めていきたいと思っています。長期的には、培った総合力を使って何等かの分野で道を切り開いていきたいですね。

■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 今後は嫌でもグローバルな環境で仕事や日常生活をしなければいけなくなると思います。グローバルな領域で活躍する=外国語ができる・国際案件を担当する=恰好がいい、というような感覚ではなく、異なった文化や言語を受け入れ対応できる体力をつけ、その上で日本人としての個性を世界に主張できるように活躍してもらいたいと思います。

ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

『グローバルに活躍する』第2回 岩井久美...main『グローバルに活躍する』第4回 松本久美...