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『グローバルに活躍する』第2回 岩井久美子君(曾我法律事務所)

2015.05.13


 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第2回は、曾我法律事務所で活躍されている、岩井久美子さん(2005年度修了)にお願いしました。岩井さんには、中国ビジネス関連を中心とした業務の内容、また語学や外国法の学び方などについて、お教え願いました。

■ 塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


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 司法試験合格後、司法修習を経て、2008年12月に現在所属する曾我法律事務所の前身である弁護士法人 曾我・糸賀・瓜生法律事務所に入所しました。入所後すぐに北京において北京オフィスを拠点に、1年間中国語と中国法の研修をし、東京オフィス勤務の後、上海オフィスで1年間、中国での実務に従事しました。

 その後、2011年の日本への帰国と同時に特許庁所管の独立行政法人に3年間出向し、2014年8月に古巣である曾我法律事務所に戻り、現在に至ります。

 文学や映画・音楽等を通じて異なる文化に触れることが大好きで、法曹として渉外法務に携わりたいという希望は一貫していました。中国に対してはその長い歴史やおおらかな国民性等について興味を持ち続けていましたので、事務所入所後すぐに中国に行かせてもらえることが非常に魅力的でした。



■ 現在の業務の概要を教えて下さい。 


 私の所属する事務所は、日本企業の海外進出サポートを業務の中心としています。

 そのため、中国、台湾といった東アジアや、ASEAN各国、インド等、日本企業のニーズが高い新興国に関する企業法務案件、具体的には契約書の作成や翻訳、現地での会社設立、事業許認可の取得、労務問題対応、新たなビジネスについての意見書作成や訴訟支援等を中心に業務を行っています。

 特許庁独法出向時代には、企業の知財部から出向してきた同僚と共に、日本企業の海外進出時の知財問題について企業支援やセミナーを全国で行っていました。ベテラン知財部員の方々とお仕事させていただき、単なる代理人の立場では知ることができなかった企業実務家の目線を学ばせていただきました。その関係で、事務所に復帰後も、ライセンス契約や権利侵害、模倣品対策等の知財案件に携わりつつ、経験の蓄積に努めています。独立行政法人での業務を通じて、各地の企業や、行政の企業支援窓口の方々とのご縁ができ、その方々から、引き続き海外知財に関するセミナーや講演の演者としてお招きいただいており、刺激となっています。

 ところで、新興国においては、法令や実務が頻繁に変更されます。特に中国等、日本企業がすでに現地法人を持ってオペレーションを開始しているような国の場合、改正により現地法人の適時の定款変更やコンプライアンス体制の見直しが必要となる等、法令の改正が重要な意味を持つこともあります。そのため、膨大な法令の中から実務上重要な箇所をピックアップして分析し、実務上の注意点についての情報を論文やセミナー等により提供することも重要な業務のひとつです。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

 コスト削減のため海外に工場を設立したり、同業他社に先駆け海外に進出してその国の市場を形成したりすることは、ビジネスにとって非常に重要です。この点、現在の業務の中心である中国は、伝統的な製造拠点としての地位に加え、市場としても大きなプレゼンスを占めています。ただ、日本や欧米諸国に比べるとまだ法令や運用に不透明なところが多いのも実情です。そのため、日本の弁護士が中国の弁護士と協力して、法令や運用の実際を分析調査し、日本企業の求めるクオリティーでの成果をご提供することで、安心してビジネスを進めていただけることにやりがいを感じています。

 また、昨今日本企業の進出先として注目を浴びるASEANやインド等についても、中国以上に、法令や司法の状況、信頼できる代理人選定が難しいところがあるため、日本企業からご依頼を受けて日本の弁護士が指揮を執る場面が増えており、企業のいちはやいニーズの変化を肌で感じられる環境にいることには感謝しています。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?
 

 新興国は法令整備の過渡期にある上、クライアントには世界各国に進出している企業が多いため、日本法の知識や考え方に加え、新たな国の新たな法域を体系的に学んだり、アンテナを高くして最新知識をつけていかなければならなかったり、というところがあり、その点に苦労しています。


■ 留学に関して、留学して良かったことや留学で身につけたこと、一方、留学先で苦労したことなどお聞かせ下さい。また、留学に関して、どういった準備をすれば良いかアドバイス頂けませんか。

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 事務所の策定した研修プログラムに基づき、2008年12月から北京にて中国語と中国法を研修しました。

 北京大学等の中国語クラス等で学ぶ通常の留学生とは異なり、老師(中国語教師)と一対一の個人レッスン形式で学習しました。中国語が全くゼロの状態であったため一日6時間、週6日の個人レッスンは厳しいものでしたが、スピーディーに業務レベルの中国語を身につけることができ、通訳者としての目安とされる資格を1年で取得することができました。

 また、並行して中国法制度についても事務所内で定期的に研修と到達度チェックを受け、中国の六法を原語で体系的に学びました。この研修中に身につけた言語習得の重要性と法令原語原典主義は、現在中国以外の国の業務をする上でも基礎になっています。

 長期の海外生活は初めての経験だったのですが、喜怒哀楽がはっきりしている中国人とはうまが合うのか、苦労した思い出はほとんどありません。ただ、生きることに真摯でかしましい中国の人々の中では、意見や希望を明確に迷いなく主張しなければ伝わらないことも多く、海外生活では郷に入っては郷に従うことが必須であることも痛感しました。

 自己流中国語学習は事務所からむしろ禁止されていたため、研修前に準備したことは特にありません。ただ、特にアジア各国への留学を考えている場合には、相手国の文化を尊重する姿勢と、歴史や政治の問題に対する興味と課題意識を、「怒らず焦らず諦めず」持ち続けることが、生活の上でも業務の上でも非常に重要と感じました。国内のお互い極端な部分のみの報道やネット上の情報等によりイメージを固めることなく、予断のないまっさらな状態で飛び込んでいただきたいと思います。


■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか?


 仕事で最もよく使う外国語は中国語です。通常は中国大陸業務だけでなく台湾業務の場合にも中国語を使用しています。その他の国や香港が関連する業務では英語を使用することが多いですね。英語は基本的部分については前職ですとか趣味の旅行、通勤中の学習で身につけた程度ですので、言い回し等が独特な契約書英語については、実務で契約書のリーガルチェックや翻訳作業で苦労しながら身につけています。

■ 塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか?


 渉外法務BPとWPを履修し、国際契約の基礎をご教授いただきました。講義中には具体的な事例に基づく模擬国際仲裁等を行い、国際案件の代理人の職責の重要性を学びました。また、知的財産法の講義中に知財の奥深さを知ったことも、行政機関への出向や現在の業務に繋がっています。

■ 塾法科大学院では、英語のみで学位取得が可能な日本版LL.M.(法務修士)の開設を計画中です。アジアを視野に入れたビジネス法務を英語で学ぶことを基本とし、日本法に関心のある留学生や、グローバルな領域で活躍することを目指す日本人法曹を主たる対象としています。1年間のコースで、そのうち半年をアメリカやアジアの提携ロースクールに留学することも想定しています。日本版LL.M.の授業内容や方向性などについて、期待するところ、要望などお聞かせくださいませんか。


 近い将来の人口予測や市場予測等を考慮すれば、法務上のアジア統括オフィスとしての役割を東京が担うこと(誘致し流れを創ること)も必要な時代が来ると感じています。したがって、塾法科大学院でのLL.M.取得を、アジア法務に携わる機会としてアピールされることは非常に有用と思います。


■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 企業のニーズはあるものの法律事務所や行政のサポートが遅れがちな国の業務を、引き続き開拓していきたいと思っています。また、日本企業の虎の子の技術やブランド力を守りつつ活かすため、特に知財分野での研鑽を積んでいきたく思います。

■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 新興国の法制度を理解するうえで、日本法への理解は最も重要な礎となっています。在学中は日本法の学習を中心に邁進していただきつつ、来るべきときのために目と耳と感性を世界に向けて開き続けていただきたいと思います。

ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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