ホーム > 修了生の活躍 > 『インハウスで活躍する』第11回 鶴田桂子君(コマツ(株式会社小松製作所))

入試情報

『インハウスで活躍する』第11回 鶴田桂子君(コマツ(株式会社小松製作所))

2014.12.19


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、 インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。 インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、 先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


  第11回は、現在、コマツ総務部で活躍されている、鶴田桂子さん(2009年度修了)にお願いしました。ロー・スクール生の皆さんには 意外かもしれませんが、株主総会に関する業務や株式に関する業務、会社法関連のコンプライアンスやガバナンス関連業務を、 法務部ではなくて、総務部が担当している会社は少なくありません。法務業務=法律関連業務と定義するならば、どの会社でも、 法務部門が法務業務を独占しているわけではありません。総務、人事、経理などの本社管理部門も、それぞれの専門分野に関して (例えば、総務=株式・株主総会関連、人事=労働法関連、経理=債権回収・税務など)法務業務を分担して行っています。 これまで登場して頂いた先輩方は、法務の方が多かったわけですが、鶴田さんからは、総務部における法務業務についても教えて頂きました。



■ 本塾法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。


  私は、2010年3月にロー・スクールを修了し、新司法試験を受験、1年間の司法修習を経た後、2012年1月に当社に入社しました。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。
  入社後1年半ほど法務部で訴訟対応を中心に業務をしていましたが、法務部の「若いうちに他部署を経験する」との方針の下、 昨年秋に総務部文書課に異動しました。現在は株主総会の準備・運営業務を中心とする株式・株主関係業務や社内規定改定・ 社内決定手続管理を中心とする業務を行っています。
 具体的には、主に以下の業務があります。
  ・株主総会事務。特に以下2点を中心とした招集通知状の作成
    事業報告(売上や株式、役員の状況など会社の主な活動状況の報告)
    株主総会参考書類(役員選任議案など、議案を紹介する部分)
  ・当社の情報開示の質を向上させるための機関投資家との対話
  ・日本版SOX法の対応としての社内規定の管理・改定推進
  ・個人株主向け施策としての当社ウェブページ改善や株主説明会の開催
  ・会社法・金融商品取引法などの法令の社内啓蒙や社内規定の周知徹底

弁護士登録はされていますか?


 入社当初から弁護士登録をしています。
 当社では、どの部署においても弁護士登録をしなければ業務が行えないということはありませんが、 登録することにより社外の弁護士とのつながりが広がり、情報交換など間接的に業務に活きることは多いように思います。 当社には司法修習を修了した法務系人材が現在8名おりますが、その全員が弁護士登録をしています。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?


コマツ鶴田さん (350x236).jpg

 法律知識をひとつのツールとして利用し、ビジネス上の観点から自らプロジェクトを推進することで、 よりよい結果を出せる点に仕事の面白みを感じます。
 どの法務系業務にも共通することですが、法的問題をクリアすることは最低限のラインであり、それに加えて、 ビジネス上の付加価値をつける工夫や、会社にとってより良い方法の選択・実施が常に要求されます。 大変ではありますが、オリジナリティを出せるうえ、良い結果を残したという満足感や自ら主体的にプロジェクトを進めたという達成感もあるので、 面白いと思います。その一例を、最近担当した業務からご紹介したいと思います。
 2013年度の事業報告において、任意的記載事項として女性の活躍を推進する取り組みに関する事項を新たに掲載しました。 事業報告の記載は、会社法上の法定記載事項をカバーしていれば法律上は問題ありませんが、 当社では従来から法律の要請を超えて積極的に情報開示を行っています。これは、より多くの情報を開示することで株主からの信頼を得られ、 また当社をアピールする情報の発信により投資判断に良い影響を与えることができるというビジネス上の判断です。
 今回新たに掲載した事項は、女性の積極的な採用、育成、管理職への登用、環境の整備等に関する当社の取組みについてですが、 昨今の政策や社会情勢を踏まえ、当社に対する社会的評価の向上とダイバーシティを重視する投資家へのアピールを目指したもので、 提案、役員への説明、人事部など関係部門との折衝など、必要な作業をすべて私が主体的に行ったうえで掲載に至っています。
 株主総会終了後、複数の機関投資家から、「先進的な情報開示であり高く評価する」というレビューをいただきました。 会社法上の要請に応えることについては法律知識を用い、さらにビジネス上の観点から新たな任意的記載部分を追加するプロジェクトを 主体的に進め、結果として法律上の要請に応えただけの場合よりも投資家へのアピールや会社の社会的地位向上の面から優れた 結果を残せた点で、充実感・満足感を感じています。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?


 会社やビジネスに関する広く深い知識と、その知識を実際に使いこなす応用力の獲得が必要な点で苦労します。  インハウスは法律事務所の弁護士と異なり、「結局、現実としてどう動けばいいのか」という問いに「こう動くべきです」という結論を出し、 その結論を関係者に説明し、時には反対意見に対し説得的な反論を行う立場にあります。ビジネス上合理性ある判断を行うためにも、 関係者に対する説明や説得的な反論を行うためにも、業務内容に関する知識や法律以外の専門知識は不可欠です。これら知識の獲得を限られた 時間の中で行うのはなかなか困難です。
 特に必要性を感じた知識を以下にご紹介します。

[法律以外の専門知識]
 法務部に所属していたころは訴訟対応や組織再編案件で会計・税務の知識が乏しかったために社内の議論についていけないことがありました。 たとえば、企業や事業を買収するための会社法上のスキームは複数ありますが、その中で自社の支出を最小化する手段を選ぶためには会計・ 税務の知識が必要です。

[業務についての具体的知識]
 社内の体制や業務に対する具体的イメージがないとよい仕事ができません。たとえば、社内規定を整備する場合はその規定が適用されるすべての事業所で問題なく運用できるものにする必要がありますが、勤務したことのない部署・事業所の業務を詳細にイメージすることはなかなか困難です。実際、私自身が本社勤務であるため、本社で運用する場合は問題ないが工場で運用するにはそぐわない規定の提案をしてしまったことがあります。


■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?


コマツ鶴田さん2 (263x350).jpg

 [基礎的知識・姿勢]
 法科大学院では、基本六法や選択必修科目の基礎的な知識と、法律論に終始せず具体的な事実を重視して 妥当な結論を導く姿勢を学びましたが、これらは日々の業務の基礎であり、仕事の中で大いに役立っています。

[説明能力]
 会社の中では迅速に・簡潔に・分かり易く説明することが求められますが、要件事実論で習得した「論理的思考」と 「必要な事実を過不足なく適示する能力」、ソクラティック・メソッドの授業で培った「迅速に自分の考えをまとめて分かり易く説明する能力」は、 このような説明を行う上で非常に活きています。

[法科大学院教育に望むこと]
 法科大学院教育に望むことは、ビジネス上の常識的な知識を教えることです。インハウスに限らず、裁判官や検察官、 法律事務所勤務の弁護士であっても、企業活動に伴う法的問題に取り組むなかでビジネス上の知識が無いと妥当な結論を導けないという 事態も多いと思います。
 慶應大学の法科大学院には、企業法務ワークショップ・プログラムなど、ビジネスに活かせる選択科目が豊富に存在しますが、 司法試験の準備に追われてそのような科目を積極的に履修する余裕がない学生も多いので、会社法総合など必修の授業で、 ビジネスの常識的な知識を習得できれば、将来どのような法曹になっても役立つのではないでしょうか。


■ 5年後や10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


[短期・中期的目標]
 5~10年スパンでは、より実務上有益な判断を行えるよう、会社の事業・商品・サービス等に関する知識や会計・税務など 法律以外の専門知識を身に付け、現場も経営陣も納得する仕事をすることが目標です。

[長期的目標]
 最終的には、当社の企業価値を最大化する直接的な役割を担うことを目指しています。たとえば当社グループのリーガル・リスクを最小化するような、全世界的なリーガル・システムの構築を行うなど、マネジメント機能の一端になりたいと考えています。 他方で、次世代の法律実務家の育成にも関心があり、手段はまだ検討中ですが、当社での経験を社内外の若い弁護士の方々とシェアし、 日本の法曹界のさらなる発展をサポートできればと思います。


■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。


コマツ鶴田さん3 (269x350).jpg

 積極的に情報収集されることをお勧めします。インハウスは、業務範囲が会社の事業活動によって制限されますし、 要求される役割も会社によって大きく異なるうえ、自分の仕事が社会に影響を与える度合いもまちまちです。 やりがいや充実感をもって仕事をするためには、業務内容・法務の役割・社会との関わりの点で自分の希望と合う会社を見つけることが 重要ですので、自分の希望とマッチする会社を見つけられるよう、在学中から様々な業界・会社の情報を収集されることをお勧めします。
 職務経験がない場合、自分の希望を具体的にイメージすることは難しいですが、慶應法科大学院には経験豊富な実務家教員が 大勢いらっしゃいますし、三田法曹会の先輩は後輩の面倒見がよいので、ぜひ積極的に話を聞きに行かれたら良いと思います。

ご学業の成就と、その後のご活躍をお祈りしています。


ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。
(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません)

『インハウスで活躍する』第10回 中村亜...main『インハウスで活躍する』第12回 望月健...