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『グローバルに活躍する』第1回 舘野智洋君(フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所)

2015.04.15


 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第1回は、フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所で活躍されている、舘野智洋さん(2005年度修了)にお願いしました。

■ 本塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


 司法試験合格後、司法修習を経て、2009年1月に米国系の大手法律事務所に入所しました。2012年7月に海外留学し、翌年11月にニューヨーク州司法試験に合格しました。その後、2014年8月に現在所属しているフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所に移籍しました。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。 


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  私の業務時間の多くは、国際仲裁業務で占められています。国際仲裁に初めて触れたのは、塾法科大学院在学中に、日本商事仲裁協会の中村達也先生が担当されていた、国際商事仲裁の授業を受けたときでした。この授業を受ける前は、仲裁と調停の区別もつかないような箸にも棒にもかからない状態でしたが、この授業をきっかけに国際取引における主要な紛争解決方法は国際仲裁であることを知り、これに興味を持ったことをよく覚えています。幸運にも前に所属していた法律事務所において多数の仲裁案件を担当する機会に恵まれ、その後、国際仲裁をより専門とする法律事務所であるフレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所に移籍しました。

 現在の所属法律事務所の仲裁グループは、仲裁業務をリージョナル・プラクティス(地域的業務)と位置づけているため、シンガポール、香港、そして、東京事務所に所属する同僚弁護士とチームを組んで業務にあたるのが通常です。私も、席は東京事務所にありますが、メール、電話やテレビ会議を介してあたかもシンガポールや香港の同僚と隣り合わせの部屋で仕事をしているかのようにして作業を進めています。案件の性質や規模によっては、パリ、ロンドン、ニューヨークやワシントンDC事務所の弁護士とチームを組むことも珍しくありません。

 ただ、この業務推進方法の弱点は、同僚の顔が見えず(見えたとしてもテレビ会議に限定されてしまう)、本当の信頼関係を構築することが時に困難であることです。そこで、この弱点を補うべく、各グループは年に1回程度世界中から同僚弁護士を集め、チーム・ミーティングという研修会議を持ちます。直近の仲裁グループのチーム・ミーティングは2014年11月にウィーンで催され、また、アジア紛争グループのチーム・ミーティングは2015年3月にプーケットで催されました。

  近時は、国際仲裁以外の業務として日本企業の海外関連会社に関する業務が増えています。ただ、私の業務の軸足は紛争対応になりますので、従業員の不正や贈賄といった不祥事対応や、コンプライアンス体制の構築といったものがほとんどです。紛争や不祥事発生後の非常時のお手伝いがメインですが、平時に関しては、非常時の経験を活かしそのような事態を出来る限り回避すべくコンプライアンス体制の構築をお手伝いしているというイメージです。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

 日本企業の海外進出の増加に伴い、日本企業と、外国企業や外国国家との間の紛争は増加しており、必然的に国際仲裁案件の数が増加しています。しかし、この分野を専門とする日本人弁護士はまだ決して多くはないため、先駆者として実務に携わる面白味があるかと思います。かなり基本的な例を挙げると、近時日本企業の進出が活発な東南アジア地域においては、日本の裁判所の判決を執行できないことがほとんどであり、また、現地の裁判所の公平性や迅速性に疑義があることも多いことから、仲裁が唯一の紛争解決手段であることが多いと言えます。しかし、この点を看過している企業も少なくないため、このようなことをお話しすると、とても助かったと喜ばれることがあります。

 また、国際仲裁の場合、口頭審問の前に膨大な時間をかけて準備するのが通常ですが、様々な事務所の同僚弁護士と時間をかけてじっくり議論しながら尋問の準備をすることも、刺激的で面白いと感じています。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?
 

 「日本企業」「日本法」といった日本との繋がりがなくなったときに、弁護士として必要とされる場面が激減してしまうことが目下の苦労であり、悩みです。真にグローバルに活動していると言えるには、日本との繋がりの有無に関係なく仕事を依頼されるよう精進しなければいけないと感じています。


■ 留学に関して、留学して良かったことや留学で身につけたこと、一方、留学先で苦労したことなどお聞かせ下さい。また、留学に関して、どういった準備をすれば良いかアドバイス頂けませんか。
 

 2012年7月からオランダのライデン大学に1ヵ月間の短期留学をした後、同年8月からアメリカ・ニューヨーク州のコロンビア大学ロースクールのLL.M.課程(Master of Laws課程)に留学しました。

 私は、留学を通じて国際仲裁の理解を深めたいと考えていましたので、国際仲裁関連の講義やセミナーを中心に受講しました。ここで勉強したことは現在の業務において役立っていますし、授業を通じて出会った仲裁実務家の方々とは今でも交流があり、仕事上の貴重なネットワークになっています。

 留学で苦労したのは、なんと言っても大量の予習資料の読み込みです。例えば、投資仲裁の仲裁判断は数百ページに及ぶものも珍しくなく、要点を把握することに難儀することも少なくありませんでした。

 アメリカのロースクールが志願者を選抜する上で重視するのは、日本の大学の成績(学部、法科大学院、司法研修所)、パーソナル・ステイトメントと呼ばれる自己紹介文書、そして、TOEFLの点数と言われています。パーソナル・ステイトメントとTOEFLの点数は後からどうにでもなりますが、大学の成績だけは後からどうあがいても変えることができません。塾法科大学院時代に、「俺は留学するからローでも良い成績を狙っている。」と語っている友人に接し、「意識が高くてすごいなぁ。」とびっくりしたこともありましたが、後から振り返ってみればその友人の言っているとおりで、法科大学院の成績は重要です。


■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか?


 仕事で使う外国語は英語です。読み、書き、喋りのどれをとっても7対3の割合で英語の方が日本語よりも多いと思います。私は小学生の時分にアメリカで生活していたので日常英語はその際に身につきましたが、法律英語は実務を通じて身につけました。いずれにせよ、渉外法律業務から英語を切り離すことはできませんので、英語の研鑽は必須です。

■ 塾法科大学院では、英語のみで学位取得が可能な日本版LL.M.(法務修士)の開設を計画中です。アジアを視野に入れたビジネス法務を英語で学ぶことを基本とし、日本法に関心のある留学生や、グローバルな領域で活躍することを目指す日本人法曹を主たる対象としています。1年間のコースで、そのうち半年をアメリカやアジアの提携ロースクールに留学することも想定しています。日本版LL.M.の授業内容や方向性などについて、期待するところ、要望などお聞かせくださいませんか。


 国際的に通用している法律やプラクティスに関する授業が充実することを期待します。例えば、国際仲裁の分野で言えば、仲裁地としてどの国が指定されても、国際的なスタンダードと考えられている運用がなされているので、原資格国がどこであっても皆が勉強したいと考える内容はある程度共通しています。取引契約においては、準拠法として、ニューヨーク州の契約法やイギリスの契約法が指定されている例をよく見ますし、紛争になれば国際法の理解を求められることも少なくありません。このような、国際的に通用している法律やプラクティスについて、最先端の内容を網羅的に、日本で勉強できたらとても嬉しく思います。

■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 変動の激しい時代ですので将来像を描くのは難しいですが、日本と繋がりがあるから案件を依頼されるという状態を脱却し、日本と繋がりがない案件についても専門性を理由に依頼されるようになるのが理想です。


■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 昨今、弁護士業界の将来性について厳しい意見に接することが少なくありませんが、日本国外に目を向けると弁護士が活躍できる場は沢山あり、むしろ、人が足りていないというのが率直な感想です。本来日本人弁護士がやるべき仕事も、人手不足・人材不足のため外国人弁護士が賄っているのが現実ではないでしょうか。日本の司法試験の勉強を進めると、どうしても日本で、日本語で、仕事をすることに傾きがちになるかと思いますが、そうでない分野を見据えても良いと思います。

ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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