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『グローバルに活躍する』第5回 大久保晋吾君(ヤンゴン大学法学部)

2015.07.21


 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第5回は、外務省を経て、ヤンゴン大学(ミャンマー連邦共和国)で活躍されている、大久保晋吾さん(2008年3月修了)にお願いしました。大久保さんは、外務省での勤務後、ヤンゴン大学で教職に就いておられます。2つの異なるグローバルな活躍の様子を教えてもらいました。

■ 塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


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 前職の外務省、現在のヤンゴン大学の仕事は、いずれも海外色の強い仕事であるため、併せてお話をさせて下さい。
 塾法科大学院修了後は、故郷・北海道での司法修習を経て、外務省の専門家採用の試験に合格し、翌4月に入省いたしました。3年間勤務した後に退職し、2013年12月に再開したミャンマーの最高学府・ヤンゴン大学で、開校当初より客員教員として勤務をしております。
 外務省は、外交官という仕事に昔から強い興味、憧れを持っていたことが大きく、ヤンゴン大学は、「大学を0から作る」ことに携わる機会は二度と訪れないだろうと感じたことが決め手になりましたが、きっかけとして、外務省時代に途上国の開発分野に携わったことも影響しています。



■ それぞれのお仕事の概要を教えて下さい。 


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     「ミャンマーの法律家と共に(本人左端)」

[外務省]

 経済分野を中心に、政府の外交を統括する部署であったため、極めて多岐にわたる業務を担当させて頂きました。国際会議における他国との交渉、様々な機会に行う二国間・多国間の会談、それに伴う情報収集、文書作成等、上司・同僚にも恵まれ、およそ外交として思いつく内容の殆どを経験させて頂いたように思います。

 印象に残っている仕事の一例を挙げると、東日本大震災後は、震災の状況を他国に適時

    に説明する政府の広報を担当し、在京の大使

    館に勤務する各国の外交官や外国メディアへの対応に加え、首相官邸の広報室、世界中にある日本大使館の同僚達と共に、各国政府への説明等のため、文字通り世界中を飛び回りました。

 G8/G20サミット等の首脳会談の機会には、其々の国旗が掲揚される中、マホガニーのテーブルに向かい合って両国の外交団が座り、両国の関心事項を議論するという、昔憧れたイメージ通りの外交の舞台にも度々遭遇し、子供の時の夢が叶ったような、秘かな感動を覚えたことも記憶に残っています。


[ヤンゴン大学]

 1988年に起きた民主化を求める学生デモに起因し、ヤンゴン大学の学部課程は長く閉鎖をされていたのですが、現大統領が民主化路線に舵をきったことに伴い、25年ぶりの2013年12月に再開されることになりました。

 「大学を0から作る」という一大事業に、日本をはじめ、米国、英国等からも複数の教員が参加しており、各々が専門分野の講義を行い、研究者として関連分野の研究に努めるといった一般的な大学教員としての仕事に加えて、カリキュラムを0から考え、政府当局と一緒に、教育政策を議論し、必要であれば関連法について立法・改正の支援をするなど、広い意味での国作りのような仕事にも携わります。

 依頼者、雇用先等の違いはありますが、日本の明治時代に、日本の大学に所属していたボアソナード教授等のお雇い外国人教員をイメージして貰えれば、当たらずと雖も遠からず、といったところでしょうか。


■ 弁護士登録はされていますか? 登録の有無はお仕事にどのように関係していますか?
 

 弁護士登録はしており、都内の法律事務所に所属しております。訴訟代理人等の業務には現在就いていませんが、海外業務について依頼者から相談を受けることもあります。

 海外で仕事をするときに感じるのは、Lawyerという職業に対して世界共通の認識・理解があることです。同業者との関係では、Lawyerと名乗ることで、同じバックグラウンドを共有している者として、初対面でもある程度の信頼に繋がります。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

[外務省]

 一見報われなさそうな辛い仕事、些細な案件でも、これがどこかで世の中のためになっている、多くの外交官はそう信じて日々の業務に就いています。小さな一人ひとりの働きが、やがて大きな変化に繋がることもある、実際にそのような場面を何度も現場で経験するにしたがい、その想いは日々強くなりました。弁護士業にも通じる部分ですが、黒衣(くろご)であることに誇りを感じる文化がありました。

 他方で、各国の大統領、首相や王族など、普段ニュースでしか見ることがない人達を、実際に自分の目で見て、その話を直接聴く機会が持てた事も、自分の世界観が広がったという意味で、一生の財産になったと感じています。

 ただ、これは外務省、国際機関等の仕事の良い点でも悪い点でもあるのですが、良く言われるように、現場から距離があることも多く、議論や交渉で話されている現場のイメージがわかない、実感が持てないことを少なからず経験しました。


[ヤンゴン大学]

 現在はまさに現場そのもので仕事をしているので、物事が変わっていく実感を強く持てることは非常な魅力であると感じます。どちらも一長一短なので、双方を経験したことで、互いの立場が分かり、より多くのことに面白さを感じられるようになりました。



■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?

 松本弁護士(第4回)も指摘されていましたが、ミャンマーにおいても、言語と文化の違いに、やはり尽きるように思います。違いがあることは当然なので、それを前提に柔軟に考え、慌てず怒らず、一つ一つ対処していく他ないのでしょう。

 その他の点として、途上国では基本的なインフラが十分でない中において、日本と同じような質と量の仕事を維持することが難しく感じます。外務省時代は、中東の砂漠の街や、移動中の外国の空港等で突然重要な会談を行うこともあったため、世界中どこでも一定の仕事がこなせるよう、常にPC、電源、文房具一式、プリンタ等を携帯していました。ミャンマーでは、日中の半分以上が停電、滞在先にネット環境がないことが日常茶飯事なので、限られた(電気が使える)時間の中、どのような段取りで仕事を最低限こなすかが課題です。

 またご想像のとおり、法律外の仕事に関わることも多いので、常に新しい領域の勉強を厭わないこと、短時間でUnlearnすること(これまでの考え方の癖を捨て去ること)も意識して大切にしています。



■ 海外では何年ぐらいお仕事をされましたか? また、海外ならではの苦労や工夫などお聞かせください。


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 「アフリカ各国の法律家と共に(外務省勤務時代)」   

 言葉は最低限生活に必要なビルマ語を覚えたことで、日々の暮らしには困っていませんが、反面、生活環境での苦労は日々絶えません。45℃近い猛暑、屋根が吹き飛ぶサイクロン、下水が街に氾濫するほどの豪雨などは、身の危険さえ感じます。そういった苦労も含めて全部笑いにかえて楽しむくらいの気持ちがあれば、多くを学ぶことが出来ると思います。








■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか?


 外務省では、日本語、英語、ミャンマーでは、英語、ビルマ語、日本語の順に使用頻度が高く、属人的な業務の関連でフランス語も頻繁に使っています。

 ヤンゴン大学の先生、学生は全員英語が話せるので、基本的に講義、会議などは英語で行われますが、日本語を話せるミャンマー人も多く、日常生活では、片言の日本語、ビルマ語を主に使用しています。

 前職、現職を通じて、国際機関の方、アフリカ出身の方との付き合いも増え、読み、書きについては、日常的にフランス語にも触れています。

 留学経験はないため、独学で勉強しましたが、英語、フランス語ともに道半ばで、日々研鑽に努めています。英語は、外務省で総理・大臣通訳を務める同僚に囲まれたことで、司法試験をもう一度受けるような気持ちで必死になって勉強したことが今に生きています。フランス語は、学部時代に第一外国語として学習したこと、趣味のように細く長く勉強を続けていることが大きいです。



■ 塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか?


 外交の場における条約・法律文書の交渉は勿論ですが、それ以外の場においても、法的なものの考え方に助けられました。特に、伊東研祐先生、鈴木左斗志先生との刑法の議論や、田中豊先生、金谷利廣先生、小林充先生の訴訟構造に即した法律論の授業に大変感謝しています。

 外交と法律の関連性が、私も在学中は見えていなかったのですが、国際的なルールメイキングをする場では、訴訟と同様に、双方が書面により主張を尽くし、主張を基礎付ける事実を示すことで、自国の主張を正当化することになります。求める対象が、判決なのか領土なのか、立証に必要なのが、法的事実か歴史的事実か、といった違いはありますが、構造は大きく変わりません。実際に他国の外交官はロースクール出身者ばかりですし、日本の外交官も法律専攻の方が自然と多いように思います。法律の素地が役に立つ職種として、行政官も1つの選択肢に入れて頂けると嬉しいです。


■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 修習直後に弁護士として外務省に入省したのも、ミャンマーの大学に教員として勤めた法律家も私が一人目であったようです。まずは今の場所で最善を尽くしたい、と思っていますが、これまでの数年を見ても、数年後何をしているかは全く想像が出来ません。

 一つひとつ積み重ねた最良の選択が、10年後振り返ったとき、点と点が繋がっていれば良いなと思います。


■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 選択肢は幾らでもあるし、自分が想う道を行くのが最良の選択だと思います。

 選んだ道によっては、前に進むのに強さが必要になりますが、皆様が司法試験に費やしたものと同じ質・量の努力があれば、多くの道は拓くことが出来るはず。その時々の最良の選択を、その努力と想いで最高の選択にかえてください。

 私自身、紆余曲折や辛いことばかりで、自慢できるような人生ではないですが、今あるものから選ぶのではなく、ないものをつくることも、一つの選択肢としてある、と知って欲しいと思います(一人の法学教員でもありますので、何か相談があればいつでもご連絡下さい。)。


ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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