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『グローバルに活躍する』第12回 荒井喜美 君(西村あさひ法律事務所)

2016.04.25

 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第12回は、西村あさひ法律事務所で活躍されている、荒井喜美さん(2006年3月修了)にお願いしました。

■ 塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


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 2006年に司法試験に合格した後、司法修習を経て、2007年12月に西村あさひ法律事務所に入所しました。同法律事務所で約5年半勤務した後、2013年夏~2014年春までコロンビア大学ロースクールで勉強し、2014年夏~2015年春までブリュッセルにあるハーバートスミスフリーヒルズ法律事務所で勤務し、2015年春に西村あさひ法律事務所に戻りました。
 私は、学部生時代に池田真朗教授のゼミに所属したことをきっかけに、金融法務に興味を持ったため、入所当初は、証券化を専門とするグループに所属しました。しかし、入所1年目に粉飾決算など企業不祥事案件を経験した結果、LS時代は知らなかった「危機管理」分野に大変魅力を感じるようになりました。そこで、徐々に専門分野を移し、入所3年目からは「危機管理グループ」という企業不祥事を専門とするグループに所属を変え、現在では、国内外で起きる様々な企業不祥事案件に取り組んでいます。



■ 現在のお仕事の概要を教えて下さい。 


 「企業不祥事」という言葉のカバー領域は広く、法令違反行為のみならず、法令違反のない「不適切行為」が発生した場合も広く含みます。たとえば、企業の事業運営とは関係なく役職員個人が法令違反行為に及んだ場合(インサイダー取引、横領、詐欺、営業秘密の不正持ち出し等)、企業の事業運営に関連し、役職員が故意または過失により不正に手を染めてしまった場合(カルテル、粉飾決算、汚職等)、最近では、サイバー攻撃を受けるなど企業が純粋な「被害者」となる場合もあります。
 次に、「危機管理」とは、企業不祥事への対応全てを指します。訴訟や当局対応等の純粋法的アドバイスだけでなく、謝罪会見を含めたマスコミ対応、企業不祥事に関して立ち上げる調査委員会への参加・協力、下記で説明する「社内調査」など、弁護士が担う役割は多岐にわたります。以上から分かるように、「企業不祥事」「危機管理」という分野は、その性質上、「発生する案件に同じものはない」という特徴を持つため、この分野を専門とする弁護士は、様々な案件を通じて経験を蓄積し、その経験を応用しながら、新しい案件を処理していくことになります。
 そのため「危機管理」の多様性ゆえに、典型的な一日の流れが無いのが実情です。クライアントとの会議はもちろん、一日中訴訟関係の書面を作成していることもあれば、ひたすら「社内調査」をしたり、調査報告書を書いたりしていることもあります。米国司法省、欧州委員会など海外当局が日本企業を調査している案件(海外当局対応案件)では、海外の法律事務所の弁護士と電話会議をしたり、様々な国に赴きながら調査をしたりすることもあります。


■ 弁護士登録はされていますか? 登録の有無はお仕事にどのように関係していますか?
 

  企業不祥事の分野では、弁護士という資格が必須ですので、弁護士登録をしています。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

 企業不祥事案件では、「社内調査」という作業が多く発生します。「社内調査」とは、企業不祥事の全容解明のため、企業が(弁護士が)自主的に実施する調査のことをいい、犯罪捜査から公権力(強制力)を取り払ったようなものです。たとえば、「X部から3億の金が消えた」、「Y部では、Aという製品について、競合他社と値上げ合意をしたらしい」といった漠然とした情報を元に、関係者へのインタビュー(刑事訴訟法の世界では「取調べ」)、関係資料の収集・精査(刑事訴訟法の世界では「捜索・差し押え」)など実施し、案件の「筋」を見ながら、事案の全容を解明していきます。
 弁護士の場合、捜査機関のような強制力は持っていないため、法令違反を犯した人物が「否認」した場合、任意である「社内調査」の限界と戦うことになります。そのような中、社内調査により全容を解明する手法、「否認」している場合を含め関係者が真実を話しているかどうかを見極める方法など、教科書には書かれていないことを、上司の弁護士(慶応LSでも非常勤講師として教鞭を取っている梅林弁護士など)から学んでいきます。こういった職人芸的ともいえる能力の習得は、個人的にはとても面白く感じています。
 「企業不祥事」や「社内調査」という分野は日本のロースクールでは聞き慣れませんが、私が留学していたコロンビア大学では「White Collar Crime」、「Internal Investigation」という授業が設置されており、海外では学問としての地位を獲得しているようです。特に、近年は、海外当局対応案件の増加に伴い、海外の法律事務所と協力しながら事案を進めていく機会が増えてきました。外国人弁護士と一緒に戦略を練ったり、海外各地で社内調査を協同したりするのは興味深く、彼らの「社内調査」手法を学ぶこともできます。また、海外当局対応では、日本人が海外当局に呼び出されたときに付き添うこともあります。さらに、日本企業が海外当局に制裁金を支払って訴追を免れる判断をする局面などでは、役員の善管注意義務の観点から検証する必要も生じるため、日本の弁護士であっても、海外当局との司法取引の過程に深く関与することもあります。タフな場面も多いですが、弁護士としてのやり甲斐をダイレクトに感じることができます。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?

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 企業不祥事の場合、訴訟等の一部の法定手続きを除き、「スケジュール」が存在しません。違反行為が見つかった、海外当局から突然質問状が送られてきた、証拠が破棄された、XX新聞にリーク記事が出たなど、次々と突発的なことが起こるので、機動的に動けるようにしておく必要があります。また、海外当局対応が多い弁護士は、時差とも格闘しなければならないので、時間の大切さが身にしみる日々を送っています。


■ 留学に関して、留学して良かったことや留学で身につけたこと、一方、留学先で苦労したことなどお聞かせ下さい。また、留学に関して、どういった準備をすれば良いかアドバイス頂けませんか。


 ニューヨークにあるコロンビア大学ロースクールのLL.M.課程に留学しました。私は、留学前に米国司法省等が関与する案件を複数経験しましたが、特に米国連邦刑事法については、日本に十分な文献が無く、困ることが多くありました。そこで留学中は、連邦刑事法について、実体法・手続法ともに理解を深めることを目標にしました。コロンビア大学では、留学生の多くは会社法や証券取引法などを取る傾向にあり、連邦刑事法を取る留学生は2名しかいなかったので、40~50人のアメリカ人学生に混じって授業を受けるのは、語学面で相当厳しかったです。しかし、勉強の成果は、留学後に論文にして発表するなど、形に残すことができ、現在の仕事に役立てることができています。
 留学準備ですが、大学、法科大学院、司法研修所でよい成績を取った方がよいと言われているものの、経験上、必須ではないと思います。個人的には、TOEFLのスコアが一番重視されている印象を受けました。特に、スピーキングセクションの点数を一定レベルに上げておくことは重要だと思いますので、早めに対策することをお勧めします。


■ 海外では何年ぐらいお仕事をされましたか? また、海外ならではの苦労や工夫などお聞かせください。


 ベルギーのブリュッセルにある英国系の法律事務所に9ヶ月程勤務しました。米国とヨーロッパの双方を経験する機会に恵まれ、EU法を学ぶとともに、ヨーロッパの人たちの物の見方、生活などにも触れる機会を得たことが、何よりの財産であると思います。
米国、ベルギーの双方を通じて苦労した点は、やはり英語を話す能力です。日本語なら数分で済む議論に相当な時間を費やさなければならないときなど、悲しくなることも多々ありました。ただし、ヨーロッパの場合、英語を母国語としない人たちが混ざり合って議論する機会が多く、皆が、それぞれの国の訛りのある英語で懸命にコミュニケーションを取ろうとしていたので、日本語訛りを気にしないというメンタリティは育ったように思います。
 海外生活では、日本では当たり前のことが当たり前ではありません。「時間を守る」という日本人の遺伝子に組み込まれた概念は存在しない上、特に、ニューヨークでは、地下鉄が停車駅をすっ飛ばすなど、日本では考えられないような出来事も頻繁にありました。他方で、緊急時には、多少大げさな表現をして相手の感情に訴えると例外的な取扱いをしてくれるなど、コツさえつかめば、便利なことも多々出てきました。そのためか、逆に日本に帰ると、杓子定規さを窮屈に感じることもあります。


■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか?


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 仕事で使う外国語は英語です。海外当局対応では、海外出張や電話会議も多くあり、「読み書き聞く話す」の全てをやっています。英語を話す役目を引き受ける人は少ないので、私は、若手の頃、能力に不安があっても「出来ます」と手を挙げ、積極的に英語の仕事を取るようにしていました。
 私は、大学受験で英語が得意科目になった後、大学、慶応LS、司法修習と、法曹へのステップを踏む全ての段階で、英語の学習を続けました。今でも、休憩時間に、CNNやBBCのニュースを聞くなどしていますが、やはり、語学学習は、1日15分~30分でもよいので継続することが一番だと思います。


■ 塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか?


 LS時代は、金融法務に興味を持っていたため、西村あさひ法律事務所の弁護士が担当する金融法務BP、WPを取り、早い段階から実務家の先生の考え方に触れ、将来のイメージを持つようにしていました。また、毎期、英語の授業を1~2コマ取るように心がけていました。慶応LSには、将来を見据えた好奇心を満たしてくれる授業が幅広く揃えられているので、慶応LSは学生から実務家への架け橋となってくれたと思っています。

■ 塾法科大学院では、英語のみで学位取得が可能な日本版LL.M.(法務修士)の開設を計画中です。アジアを視野に入れたビジネス法務を英語で学ぶことを基本とし、日本法に関心のある留学生や、グローバルな領域で活躍することを目指す日本人法曹を主たる対象としています。1年間のコースで、そのうち半年をアメリカやアジアの提携ロースクールに留学することも想定しています。日本版LL.M.の授業内容や方向性などについて、期待するところ、要望などお聞かせくださいませんか。


 慶應義塾らしい先端的な試みだと思います。今後、アジアマーケットで、日本企業が成長していくためにも、リーガル面でも、日本がリーダーシップを取ることが必要だと思います。私が現在所属しております事務所でも積極的に東南アジアに拠点を開設するなど、実務サイドから新しい試みを展開していますが、慶應義塾におかれましては、大学という組織を活かし、学術的観点からもアジアリーガルの中心となっていただきたいと思います。


■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 近年、日本企業が海外当局から摘発され、多額の制裁金を課されたり、特に米国当局の場合は、日本人が米国の刑務所に収監されたりする事案が増えてきました。これらの事案は、横領など個人的利得を得る犯罪とは異なり、競争法違反のように事業遂行の中で不可避的に発生してしまう場合もあります。また、米国や欧州の場合、法令の「域外適用」により、外国当局が、米国・欧州域外で発生した行為に対し、広く管轄権を持つようになってきています。さらに、米国司法省の場合、司法資源節約を目的に、連邦刑事法違反事件に司法取引を多用しているため、刑事裁判ではなく、不訴追合意ないし訴追延期合意といった「契約」により、日本企業が高額な制裁金を支払って終件する場合がほとんどです。個人的には、日本企業が過度に狙い撃ちにされているような印象も受けていますので、日本企業の防御権を行使・確保することは、大きな仕事だと思っています。
 また、日本企業は、特に外国企業から営業秘密を不正に持ち出される事件に苦慮していますが、ここ数年、不正競争防止法に基づく刑事事件化や、加害企業に賠償金を支払わせることに成功しています。日本企業の技術を守る局面においても、弁護士の役割の重要性を痛感することが多くなっています。
 私は、案件を通じて抱いた問題意識を、論文にして発表するなど、個人的に論点整理を進めています。5年後または10年後、そしてその先も、常に問題意識を持ちながら、企業不祥事が発生した企業をサポートし、少しでも企業活動が円滑に進むよう、努力し続ける弁護士でありたいと思います。


■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 グローバルな領域には、様々な分野があると共に、世界中から様々な参加者がいます。自戒の念も込めますと、「自分はグローバルな領域にいるんだ」という自己満足に終わらないようにするためにも、長期的に取り組むテーマを持ちながら、グローバル領域での自身の存在意義を問い続けていけるとよいのではないかと思います。


ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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