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『グローバルに活躍する』第9回 鳩貝 真理君(外務省国際法局)

2016.03.08


 社会がますますグローバル化する中、法曹の活躍の舞台も世界に広がっています。在学生の皆さんの中にも、そういった分野に興味を持っている人が少なくないものと思います。

 そこで、塾法科大学院を修了し、グローバルな領域で活躍している先輩たちにお願いし、どのようにして現職に至ったか、仕事のやりがいや難しさ、語学についてなど、皆さんの関心が高いと思われる質問事項をお送りして答えてもらいました。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思いますので、将来の進路の参考にして下さい。



 第9回は、外務省国際法局で活躍されている、鳩貝真理さん(2008年修了)にお願いしました。

■ 塾法科大学院修了後、現職に至るまでを簡単に教えて下さい。また、今のお仕事を選ばれた動機やきっかけもお聞かせ下さい。


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  法科大学院修了後、千葉での司法修習を経て、有泉・平塚法律事務所という海事法、保険法及び国際商取引法を専門とする渉外事務所に入所しました(現在も弁護士の籍を置いています)。国際商取引等を扱うなかで貿易立国である日本が難局を乗り越えるためには国際的な経済連携が重要なのではないかと考えており、一方で EU法の研究会やEU競争法研究会に参加するなどEU法への理解を深めていたなか、日・EU経済連携協定の締結交渉が進むタイミングでご縁をいただき、2015年1月から外務省国際法局経済条約課に特定任期付公務員として入省し、現在に至ります。



■ 現在のお仕事の概要を教えて下さい。 


 外務省国際法局は条約に関する最後の砦ともいわれるところで、条約の締結、解釈、実施等に関する業務を行っています。私は経済条約課に所属し、TPP、日EU経済連携協定、RCEP、日中韓FTAといった経済連携協定について、競争、国有企業、税関手続の分野を担当しています。また、一部の投資協定も担当しています。
 主な仕事としては、条約の交渉と内閣法制局審査の対応とがあります。条約の交渉については、企業で言えば法務部的な立場から主管課のバックアップをすることになるのですが、交渉会合の準備段階で条文案や交渉での対応ぶりについて法的観点からアドバイスをしたり、状況が許す限り日本政府代表団の一員として交渉会合に出席して法的論点に関する日本側の見解や日本側の提案条文等を説明したり、交渉の最終段階でリーガル・スクラブといってテキストを整える作業を行ったりしています。
 もう一つの主な業務としては、関係省庁と調整の上、内閣法制局審査に臨み、条約の和訳が適切か既存の法体系に反しないか等について参事官からの様々な問いを検討して答えていくという内閣法制局審査の対応があります。他にも、条約の担保法として国内法を改正する際には、条約との整合性について関係省庁(例えば条約の競争章に関する法改正であれば公正取引委員会)にアドバイスしたりしています。


■ 弁護士登録はされていますか? 登録の有無はお仕事にどのように関係していますか?
 

  登録はしています。登録の有無が直接業務に関係することはありませんが、条約の交渉の相手方の行政機関には弁護士も多いため、交渉会合の場などで法律家同士ということで対話がスムーズに進むように感じることはあります。
 なお、当課には私を含めて5名の弁護士出身者がいますが、私を含め2名は登録をしており、3名は登録をしていません。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?
 

 もともと日本と世界を繋ぐのが夢でそのツールの一つとして法律を選んだこと、また経済条約の締結が最終的には平和に繋がっていくと考えていることから、経済条約を締結する一助となれること自体にいつもひそかにワクワクしています。
 条約の締結には、ルール作りの過程に関与できる点にダイナミックな面白さがあります。特に、ある協定では守りとして用いている要素を別の協定では攻めの条文として機能させるなど、いかに国益を実現していくのかを協定の個性に合わせて工夫するところに面白さを感じます。また、日本側と相手国側の提案条文が一見かけはなれているように見えても、対話を重ねていく中でそれぞれの根底に存在する意向に共通点を見出し、文言を調整して条文案がセットできたときなどにテキスト交渉の醍醐味を感じます。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?

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 タイトなスケジュールの中で数々の案件を同時並行で進めなければならない点に苦労しています。法制局審査の準備には大変な時間がかかるのですが、これと並行して複数の経済連携協定の交渉の準備をする必要があるので深夜勤務も少なくありません。


■ 留学に関して、留学して良かったことや留学で身につけたこと、一方、留学先で苦労したことなどお聞かせ下さい。


 慶應義塾大学法学部政治学科に在学中、University of California, Los Angeles校へ交換留学し、国際政治を専攻しました。感受性の強い時期だったからでしょうか。1年間という限られた期間でしたがこのときの経験が自分の原点の一つになっているように思います。また、学部時代に慶應義塾のプログラムでパリ政治学院に短期留学してEU関係を勉強できたことも今に繋がっています。今後海外のロースクールへの留学も視野に入れています。


■ 海外では何年ぐらいお仕事をされましたか? また、海外ならではの苦労や 工夫などお聞かせください。


 仕事ではありませんが、法科大学院修了後、欧州委員会の関連機関であるEUSIの奨学金を得て、ルクセンブルグにある欧州連合司法裁判所で2か月程インターンシップをしました。欧州連合司法裁判所のうち第一審にあたる総合裁判所( General Court )の英国代表の裁判官のキャビネットに配属していただき、裁判官や調査官たちとディスカッションしたり、関係する判例についてリサーチをしたり、訪問に来た英国政府関係者に対する欧州連合司法裁判所の制度等のプレゼンテーションをしたりしました。イメージとしては日本の司法修習の裁判修習のような感じで、裁判官たちの思考をはじめ判決の形成過程に触れることができて勉強になりましたし、この経験を話すとEU側の交渉官たちが心を開いてくれるように感じることがあります。


■ お仕事で最もよく使われる外国語は何ですか? どこで、どのようにして身につけられましたか?


 英語です。お気に入りの洋画を繰り返し観るなど好きなことを通じて、あるいは卒業論文を英語で執筆するなど背伸びする機会を設けて、学生時代から英語の習得は心がけてきました。
 英語が使えると情報量もチャンスも格段に増える一方、なかなか母国語のように操れるようにはならないので、英語には希望も絶望も覚えます。法律もそうですが一生研鑽の必要があるのだと思います。


■ 塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか?


 検討対象が条約であっても、抽象的な法律論と具体的な事実とを行き来して思考しますので、法科大学院で学んだ基礎的なリーガルマインドや論理的思考は日々の業務の礎となっています。また、当時は今の仕事をするなど思いもしていませんでしたが、庄司先生のEU法BP/WPの授業でEU法の判例を原文で読み込みながら学んだことは、EU側の提案条文の意図・背景を探るにあたり活きています。さらに、渉外弁護士をしていた頃は、増田先生の渉外法務BP/WPが大いに役に立っていました。
 なお、授業ではありませんが、法科大学院の頃の先生方や仲間たちと貴重なご縁をいただけたことにはいつも有難く思っています。

■ 塾法科大学院では、英語のみで学位取得が可能な日本版LL.M.(法務修士)の開設を計画中です。アジアを視野に入れたビジネス法務を英語で学ぶことを基本とし、日本法に関心のある留学生や、グローバルな領域で活躍することを目指す日本人法曹を主たる対象としています。1年間のコースで、そのうち半年をアメリカやアジアの提携ロースクールに留学することも想定しています。日本版LL.M.の授業内容や方向性などについて、期待するところ、要望などお聞かせくださいませんか。


 とても慶應らしくて面白そうですね。将来、日本の裁判所でも英語が使用言語となる可能性もあると思いますし、海外の法曹を惹きつけることのできるプログラムになることを期待しています。また、潜在的に需要のある国際的な業務分野として、投資仲裁についても学べると良いのではないかと思います。


■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 明確な将来像に向かっていくというよりは、プロセス自体を楽しみたいと思っています。柔軟にそのときどきを全力で取り組むことを積み重ねていき、ときに振り返ってストーリーを作っていく、そんなふうに進んでいるのではないでしょうか。

■ 最後に、グローバルな領域で活躍することを目指す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 グローバルな領域といっても業務も働き方も多様です。興味があることについては、たとえばインターンをしてみたり、三田法曹会の先輩方に話を聞いてみたり、弁護士になってからであればIBAという国際的な弁護士の会議に参加してみたり、ぜひいろいろアンテナを広げてみてください。面白いことや好きなことがあったらチャレンジしてみると、今度はそれが経験となり呼び水となって次のドアを開いてくれたりするのではないかと思います。


ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

(記載内容は掲載日のものです。また個人としての記載であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。)

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