2014年6月14日(土)に開催した慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)の説明会の内容を一部ご紹介いたします。
【説明会概要】
開催日時:2014年6月14日(土)10時から11時30分
会場:三田キャンパス 南校舎ホール
大阪シティキャンパス(同時中継)
【説明会次第】
1.はじめに
2.研究科委員長のご挨拶
3.カリキュラムの概要
4.2015年度入試制度について
5.実務家紹介......福井 琢(慶應義塾大学法科大学院教授)
6.在学生紹介
7.質疑応答
実務家紹介・・・福井 琢(慶應義塾大学法科大学院教授)
2014年6月14日(土)に開催された慶應義塾大学法科大学院入試説明会のうち、教員として、また弁護士として活躍している福井 琢氏の講演を抜粋してご紹介いたします。法曹を目指される皆様のご参考になれば幸いです。
私はもう今から30年前の1984年に司法試験に合格しました。当時は、最高裁判所の司法研修所での修習生活は2年間でした。それを経て、弁護士として現在仕事をしております。当時は、2万数千人という受験者数で、大体1年あたりの合格者数が480人という時代でしたので、今とは全く制度自体が違っておりました。私自身は、普段の仕事はいわゆる企業法務という分野で、様々な企業の訴訟、仲裁、コンプライアンスの問題やM&A、契約書のチェック、今の時期ですと3月末決算の企業の株主総会が6月末に集中するので、その株主総会のお手伝いの様な仕事を中心にしております。また、企業の監査役や、監督役員、コンプライアンス委員といったような仕事を普段は行っております。
私が最初に弁護士になりたいと思ったのは小学校くらいの時で、その当時、ペリーメイスンというアメリカのテレビドラマが放送されていました。これは、車椅子の弁護士が刑事事件を次々に解決していき、無実の人を冤罪から救うというようなドラマでした。大体子供の頃になりたいと思う職業というのは、何かに憧れて格好良いなと思い志望するというのが一般的ではないかと思いますが、私もその様な類で、弁護士というのは格好良いなと思ったのが始まりでした。
私は慶應義塾の日吉にある普通部という男子校に中学から入学しました。大学の進学で何学部かを選ぶという際に、当時、実は経済学部が就職には大変有利で、法律学科に行くべきか、経済学部にいくべきか随分と悩みました。そして、偶然私は父親が慶應義塾の経済学部卒でした。ところが、父親にどうしようかと相談したところ、(この様なことを言うと経済学部の人に怒られますが、)「経済学を学んでも、経営者やコンサルタントには役に立つかもしれないが、一般の会社員としては何も役に立たない。」と言われました。少なくとも私の父親は、大学時代は恐らく雀荘とビリヤードとダンスホールへしか行ってなかったようですから、あまりその言葉を信用してもいけないのですが、そのような話があり、法学部法律学科を選びました。入学し勉強しているうちに、やはり法律学というのは面白いと思うようになりました。そして、これを一生の仕事にしたいと考えるようになりました。
今日是非皆様にお伝えしたいことの一つは、法律実務家というのは、立法担当者でもなければ、研究者でもないということです。現在ある、そして現在生きている法律、それからそれ以外の法令も含めて、或いは新しい判例やその様なものを常にフォローしていかなければ仕事にならないのです。当然ながら、依頼者から様々な相談事が来て、事案の解決をしなければなりません。その様な時に、「自分はこう思う、この法律の解釈についてこうあるべきだ」というふうに言っても仕方ありません。確定した最高裁判例があるにも関わらず、私はこう思うと主張したところで、実務家としては全く役に立たないのです。なぜなら、それでは依頼者の為にならないからです。従って、その様な判例というのは、常にウォッチして、フォローしていなければならず、法律についての改正があればそれも常に勉強していかなければいけないのです。プロとして、やはりお客様からお金を頂いてアドバイスをする以上は、それは必須です。つまり、この分野に進めば、一生法律の勉強を常日頃し続けなければいけないということです。
私が言いたいのは、皆様が単なる資格として法曹を目指すというのであれば、将来その様な方は辛いかもしれないということです。法律というものを勉強して面白みを感じれば、恐らくその方はずっとやっていけると思います。そして、もし面白みを感じているとすれば、自分がやりたかったことや楽しいなと感じる仕事、また自分自身が生きる糧や食べる為のお金を稼ぐその仕事をしながら生きていけるというのはとても幸せなことだと思っております。
もう一つご紹介しておきたいのは、三田法曹会についてです。こちらのパンフレットですと、28から29ページを開けていただけますでしょうか。これは慶應義塾の方はご存知だと思うのですが、義塾を卒業すると、全員がOBとOGということになり、慶應の場合にはこれを塾員と呼びます。塾員というのは、必ずどこかの三田会に所属しています。三田会には様々な種類があり、地域の三田会ですと例えば、青森や北海道、札幌等の地域の三田会もあれば、世田谷区みたいなところもあります。それから、学生時代に所属していたクラブのOB・OG会。これも三田会です。それから、各企業にある職域三田会。例えば、○○銀行といった一つの会社の中で慶應出身の方々が集まっている団体。これが職域三田会。そういったものの一つに、三田法曹会があります。例えば慶應ロースクールに入り、司法試験に合格して裁判官、検事、弁護士になると、自動的に三田法曹会の所属になります。ここで、パンフレットに書いてあるように、他の三田会と同じように大変繋がりが深くて、お互いに様々な形で助け合っております。例えば、自分の事務所の中でコンフリクトがあるような場合です。コンフリクトというのは、自分の既存の依頼者と相手方になるような当事者が登場してきた際に、どちらからも「先生お願いします」と頼み込まれる場合です。すると、両方の依頼者がぶつかってしまうので利益相反ということになり、引き受けられないという話になるのですが、その様な時に誰かを紹介しないといけないといった場合に、互助会ではありませんが、お互いに信頼関係があるので、三田法曹会の他の先生方を紹介します。或いは、自分の顧問先のAという企業の方から誰か社外役員を推薦してほしいというような要望を受けた際に、その知り合いの先生を推薦するといった形で、お互いに助け合って仕事をしています。
また、三田法曹会は、この法科大学院の立ち上げの時から全面的にバックアップをしておりまして、先ほど委員長の冒頭のご挨拶にもありましたが、専任教員の中で多くの実務家教員が三田法曹会出身者で、また、教育支援ゼミ等に対しても若手の先生方が殆どボランティアでお手伝いをしてくれています。先輩が後輩に教え、後輩はまた自分が今度逆の立場になった時に、同じ様に後輩に指導してあげるというような慶應の伝統があります。また、実務家教員に関しては、慶應の場合には私もそうなのですが、従前のロースクールという制度ができるかなり前から学部の方で演習科目があり、その演習科目を皆担当しておりました。今では、その演習科目を担当していた方々が、ロースクール発足後に専任教員等として必修科目等を含めた科目等を教えておりますので、これまで一度もその学生を教えたことのないという様なことではなく、常に実務家をやりながら学生に教えるということをある程度やってきた人間が多いというのも特徴の一つだと思います。
最後に、私も先ほど委員長のお話にあったことと関連して、みなさんに一言是非お伝えしたいことがあります。それは、確かに昨今マスコミ等で法曹志望者というのが非常に減っているということを盛んに報道しています。当然これから自分の人生を考えるにあたって、大変なのではないか、就職できるのかと非常に心配されていると思います。しかしながら、私は今この様に受験者数が全体として減っている時期だからこそ、非常に皆さんにとってはチャンスだと思います。普通の企業でもそうですが、30年、40年とその企業の業績がずっと良いという会社は一般にはないといわれています。つまり、就職する時に大変絶好調の会社に就職した場合には、自分が50歳の頃にはその会社がどうなっているのかわからないのです。逆に法曹というものは、医者と同じように、人間が集まって社会生活を送っている以上は必ず必要な職業です。紛争というのがどうしても起こってしまう為という、ある意味ではその様な悲しい事実があるからかもしれませんが、現実に実際に必要な仕事です。すると、皆様がこれからロースクールに入り、大体実務家として普通に仕事ができるようになる迄には、最低でも5年程度はかかると思います。10年程度経つと、中堅といってもいいと思うのですが、その頃は今から何年後かと考えた場合に、丁度現在志望者が減っており競争が減っている中で実務家になれれば、需要がある以上は恐らく全く心配はないのではないかと思います。そんないい加減なことを言って誰が保証してくれるんだという議論は勿論ありますし、誰も保証なんてできません。ただ、今の傾向だけを見て、将来のことを判断するというのは、私は誤っているのではないかと思います。
将来、皆様が、是非三田法曹会の一員に加わって下さることを期待してやみません。 以上でございます。
在学生紹介
2014年6月14日(土)に開催された慶應義塾大学法科大学院入試説明会の中から、法曹を目指して当法科大学院(以下では、慶應ロースクール)に在籍している学生の声をご紹介いたします。慶應ロースクールを目指している方のご参考になれば幸いです。
A:未修コース3年生、女性。
B:既修コース3年生、男性。
C:既修コース3年生、女性。
Q1:数あるロースクールの中で、慶應ロースクールを選んだ決め手は?
A:私は、受験時は海外にいたので、受験校を絞る必要がありました。その中で、主に3点の理由から慶應LSの受験を決めました。一点目は、統計でも出ていますが、合格率の高さです。特に、未修者の合格率の高さは、本当に重要です。ほぼ50%の合格率の内訳が、既修者がその殆どだった場合、未修者はほぼ受からないということになってしまうので、すごく重要視しました。
次に、卒業後の支援です。社会人になると、人脈作りには出身大学がすごく重要なポイントになるので、三田法曹会というものがあるのは、本当にメリットだと思いました。
最後に、授業の充実度です。先ほど、先生方も仰っていたと思いますが、まずバラエティ豊かだということは勿論のこと、学者の先生方と実務家の先生方のバランスがすごくよくとれています。1年生は学者の先生方が殆ど教えて下さるので、理論が身に付き、2年時になると実務家の先生方によって実務感覚を身につけられるよう、上手く構成された授業になっているなという印象がありました。
B:第一に、科目が充実しているところで、数多くの必修もさることながら、選択科目も多いところです。パンフレットに詳しく掲載されていないのですが、昔はテーマ演習(鉄道と刑法)やテーマ演習(農業と法)など、LSでこんなことを学ぶのかと驚くような授業があり、楽しくパンフレットを見ておりました。そして、自分が入学したらこういうのを履修してみようと考えていました。
次に、やはり人が良く、環境もすごく良いというのを噂で聞いていた為です。先生方も最高峰ですし、縦と横の繋がりや、先輩と後輩の関係、それに同窓の横の関係もすごく充実していると大阪に居たときから噂に聞いていたので、それも決め手の一つになりました。
最後になんと言っても、合格率の高さが、科目の良さと人の良さという結果に結びついているのだと自分の中で感じたので、慶應LSを受けてみようと思いました。
C:慶應LSに進学したいと思った最初の同機は合格率の高さや、ネームバリューです。
その後、慶應のLSに進学した先輩の方々から、慶應LSの指導環境や学校の状況、カリキュラム等に非常に満足しており、自分がやりたいことに合わせた授業や指導を受けられる学校だと勧めてもらったことも進学の理由の一つでした。
また、慶應LSには、優秀なOB・OGの方々が非常に多いと聞いていたので、三田法曹会などの存在が、就職や今後の自分の法曹生活において大きな助けになるのではないかと思った点も要素の一つでした。
Q2:いつからLS入試を意識し、受験の準備を始めましたか?
A:私は、準備を入試の大体一年前から始めました。その当時主に取り組んだのは、適性試験の勉強です。適性試験は慣れてない分、繰り返しやらなけれ ばなりませんでした。さらに論文対策としては、ロースクールの論文対策の本を読み、また、その本から得た視点から、日頃のニュースや新聞を読み、考えていくというのが、未修の試験にはとても役に立ったと思います。
B:僕の場合は、LSを意識せずに、大学2年の夏に予備校に通い法律の勉強しようと思い、勉強し始めました。劇団のサークルをやっていたので、大学3年生の夏まで全然勉強できずにサークル活動に明け暮れておりました。そして、本格的によしやるぞ!と思ったのは4年生になってからで、適性試験とTOEICの勉強をしました。僕は1年で集中するタイプだったので、こういった形でLSを受けたという経緯です。
C:私も学部の2年生の時から法曹を目指そうと思い始めたのですが、実際には、大学3年生のゼミに入った頃から本格的にLSを意識しながら勉強を始めました。最初は予備校に通っていたのですが、ゼミに入り方針が合わないと思い、予備校をやめてゼミや友人と一緒に勉強するという形で勉強しておりました。
司会者:今は受験の際の提出書類が変わり、TOEICは必須ではございませんので、誤解がないように補足しておきます。当時はあったということですね。
Q3:慶應ロースクールで授業を受けた感想は?
A:先ず、学ぶ内容があまりにも膨大すぎて毎日死ぬ様な思いなのですが、とにかく予習が重要です。私も人生で初めてこんなに予習をするというくらいで、先生たちの授業にかける勢いもすごいので、毎日予習に大体3,4時間かけて次の授業に臨まないといけません。学生たちも非常に貪欲なので、質問などで授業が展開してゆき、授業に非常に勢いがあります。それについていくためにはやはり予習をしていかないといけないという現状です。大変な分、課題をこなすことで、試験にも繋がっていくという内容が組まれ、無駄な予習はあまりありません。期末試験も本当に大変ですが、予習や課題をこなすことで司法試験に繋がり、その後の法曹に繋がっていくようなカリキュラムになっているので、とてもやりがいのある授業だと思っております。
B:やはり授業はレベルが高いです。どんなに予習をしても、先生は理解が浅かったり不十分だったりするところを的確に捉えてきて、ソクラテスメソッドのように「それどういう意味、どういうこと言っているの」と攻めてきます。そして、2分程ずっと黙っていると、先生も固まったまま黙っているので、冷や汗だらだらになってしまう時があります。しかし、逆にその様な経験を積んでいると、忘れずに記憶に定着していて、そして自分の論証に厚みが出てくるのだと感じています。やはり、人にどう上手く伝えるか、どうわかりやすく的確に端的に答えるかというのを学ぶ場であって、それが試験の際に、論証をどうコンパクトに書くかという勉強にも繋がると思うので、目的意識を持って授業に望むと、得られるものは大きいと思います。
C:私は、学部が法学部でしたので、法律関係の授業には既に慣れていると思っておりました。しかし、実際にLSに入ってみると、内容のレベルも、先生方のレベルも学部よりも数段高く、学部の授業とはかなり違っていました。
先生方は生徒に、慶應義塾大学LSに入ったからには、既にある程度何かを持っているという前提で授業を進められます。だからその上で単なる知識等を超えた何かを見つけられるか、といった点が求められる授業になります。いくら基本書をちゃんと勉強し、予習をしていったとしても、それだけでは授業に対応することができません。それ以上に深い考察ができるかという点を求められるので、法解釈をしていく能力を育てるという面では、非常に役に立っていると感じています。
司法試験のためにもなりますが、それに加えて、法曹家になった後、新しい法律ができ、法改正等があった際に、それに対応していける能力が養えるという点においてもいい授業だと思います。
司会者:きっと今井君にとっては2分にも及ぶように感じたということなんでしょうね。
Q4:慶應ロースクールを受験する皆さんへのアドバイス
A:昨今、やはりネガティブイメージがつくような報道も多いと思うのですが、法曹は一生の仕事だと思います。社会人にとっては、キャリアを中断しなければならず、未修だと3年間というのは長いのではないかと思うかもしれません。しかし、一生のスパンを考えた時に、ここがファーストステップなので、どの様に学ぶか、どういう仲間ができるか、どういう方向性に進みたいかというのは、全てこの3年間に基礎付けられることといっても過言ではないと思います。中でも慶應は、仲間や授業の充実度、また施設等、様々なサポート制度もあるので、ファーストステップとしては本当に素晴らしい学校だと思います。皆さんも是非受験して、合格されたら入っていただきたいと思っています。私も先輩として、何か貢献できればと思っておりますので、LSは他の大学にもあると思いますが、皆さん頑張ってください。
B:僕も一学生として、日々心掛けていることを少しだけお伝えさせていただきます。僕が一番大切だと思うのは、条文を読むことと、判例を勉強するということです。ですので、条文と判例を行き来しながら勉強してもらいたいと思っています。特に、慶應LSの入試をご覧頂くとわかると思うのですが、結構時間がタイトなので、どうしたら自分にとって最大のパフォーマンスを発揮できるかということを考えながら、受験していただければと思います。そして、もし受かったら、一緒に勉強して合格したいと思っております。
C:私もまだ勉強中の身ですが、一応慶應LSの入試を通り過ぎてきた者としてアドバイスさせて頂きますと、やはり一番重要なのは焦らないことだと思います。司法試験ではないので、LS受験の段階で完璧でないのは仕方なく、完璧になれるわけがないのです。ですので、今の段階で司法試験レベルの難しい問題にチャレンジして細かくて難しいようなところを覚えるよりは、条文や趣旨をきちんと確認して、考えを導いていけるような法的思考力を育てるという点に、より着目して勉強したほうがいいのではないかと思います。あまり焦らずに、今は一番基礎的なところができるように良い勉強の習慣をつけていくということをイメージして勉強されると、恐らくLSに入学してからも基礎的な形が役に立つと思いますので、それを意識していくと良いのではないでしょうか。本日は有難うございました。