法務研究科委員長
磯部 哲 いそべ てつ
新たな法曹養成制度が始動した平成16(2004)年4月に、慶應義塾大学法科大学院(慶應ロースクール)は開設されました。理論と実務を架橋した法学専門教育を担う法科大学院の理念は、「実学」という慶應義塾の精神にまさしく合致するものです。爾来、「国際性、学際性、先端性」の理念を基軸に据えた慶應ロースクールでは、社会に求められる幅広い人材の育成を目指してきました。法曹養成教育の実績を着実に積み上げ、近年では修了者の80%前後が最終的に司法試験に合格しており、実務法曹として活躍する修了生は、累計で約2,900名に達します。裁判官・検察官・弁護士のいわゆる法曹三者以外にも、法曹資格取得の有無にかかわらず修了生を企業人や公務員として数多く輩出しています。
「専門職」(プロフェッション)の特徴は、高度の学識に裏付けられた特殊な技能を、特殊な教育訓練によって習得し、それに基づいて、不特定多数の一般市民から個々に提示された依頼要求に応じて具体的奉仕活動を行ない、よって社会の利益のために尽くすことを社会的に承認された職業であるところにあります。
プロフェッショナルとしての法曹養成を目指すには、懇切丁寧な指導と厳格な評価が欠かせません。慶應ロースクールでは、慶應義塾の「半学半教」の精神に基づき、在学生は様々な場面で互いに教え教わりながら、日々切磋琢磨しています。同じ志を持った先輩による後輩の指導も熱心に行われています。慶應ロースクールで学ぶ一番の魅力はここにあり、在学中の成績(GPA)と司法試験の合格との間に非常に強いプラスの相関関係が確認されていることも、その成果と言えるでしょう。
プロフェッショナルとしての法曹となるためには、基本的な法的知識と法的思考能力に加えて、個々の事実・紛争に真摯に向き合う高い職業倫理観を身につける必要があります。慶應ロースクールの必修科目のうち法律基本科目では、法曹としての理論的思考と実務的感性をバランスよく培います。法律実務基礎科目では、経験豊富な実務家教員から法の運用に関わる基礎的技術を伝授します。
分野を跨ぎ国境を越えて問題が複雑化する現代では、絶えず変化する社会の多様なニーズを的確に把握し、正義や公平といった法の理念に照らして法を適用して紛争を解決したり、あるいは、新しい法制度のあり方を提言したりできる能力が求められます。慶應ロースクールの嚮導理念「国際性、学際性、先端性」を体現していると言ってよい、100を超える豊かな選択科目(基礎法学・隣接科目、展開・先端科目)やワークショップ・プログラムでの学びを通じて、新たな地平に立ち向かい挑戦できるスキルを身につけます。
慶應ロースクールは、日本の司法試験に対応する「法曹養成専攻」に加えて、平成29(2017)年4月、1年間の英語による法学専門教育を履修し、法務修士号(LL.M.)を取得できる「グローバル法務専攻」を開設しました。グローバルに法務能力を生かして活躍しようとする意欲のある人たちに向け、短期間とはいえ英語による国際的水準の法学専門教育が展開されています。この「日本版LL.M.」では、日本人学生と国際色豊かな留学生が共に学んでいます。海外研修を希望する弁護士や企業関係者はもちろん、国際機関や法整備支援、国際商事仲裁など、幅広い分野で国際的に活躍する人材の育成を目指しています。法曹養成専攻の学生も選択科目として履修可能で、各国の留学生と交流することができるのも大きな特色です。
繰り返しますが、慶應ロースクールの役割は法曹三者の養成にとどまりません。法学知識を有する専門人材は、社会の最前線で様々な活躍が期待されており、企業や行政・国際機関等、修了生の活躍できる職域は着実に拡大しています。法学という専門知識を取得し、新たな時代に挑戦する気概を持ち、「全社会の先導者」として鍛錬の道を歩もうとする気力と高い志を持つ諸君こそが、慶應ロースクールに入学されることを切に望んでいます。