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『インハウスで活躍する』第10回 中村亜希子君(コマツ(株式会社小松製作所))

2014.11.27


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、 インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。 インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、 先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


  第10回は、コマツ法務部で活躍されている、中村亜希子さん(2007年度修了)にお願いしました。中村さんは、現在の会社にお勤めになる前は、 裁判官として勤務された経験をお持ちです。その辺についてもお尋ねしました。



■ 本塾法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。


   私は、2008年にロースクールを修了し、新司法試験を受験、1年間の司法修習を経た後、2010年1月に判事補に任官し、 3年半ほど裁判官として主に民事事件を担当しました。その後、ビジネスの世界で成長していきたいという気持ちが強くなったことから、 裁判官を退官し、2013年8月当社に入社しました。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。 


   当社の法務部では、グループ会社を含む当社グループ全体の個別の契約案件、各種法律問題の相談、 国内外の訴訟・紛争案件等を中心とした業務を行っています。その他にも当社には、法務系の人材が所属する部署として、 M&A等の戦略的な提携プロジェクト案件を主に担当する国際渉外部、株主総会事務等の株式業務・社内規程制定・決裁手続関連業務を 主に担当する総務部文書課、輸出管理審査業務等を主に担当する輸出管理部、コンプライアンス関連業務を主に担当する コンプライアンス室があり、各部署が連携をとりながら業務を行っています。
 私は入社以来現在まで法務部に所属していますが、国内外の契約案件、独占禁止法や会社法等を含む各種法律問題に関する 相談業務の他にも、事業譲渡等のM&A案件、新規ビジネス立ち上げに係る検討業務、訴訟・コンプライアンス問題対応業務等、 様々な案件を担当してきました。また、グループ会社を含む各部門に対する法務研修や、各種団体の意見交換会等に関するリサーチ業務、 法務職の採用に関する業務等も担当しており、業務内容は多岐にわたります。
 


弁護士登録はされていますか?


 入社当初から弁護士登録はしていますが、登録していることが業務に直接関係してくることはありません。 当社は商品の約80%を海外で売り上げている会社であり、必然的に業務も海外案件が非常に大きな割合を占めますが、 海外案件に日本の弁護士資格は必要ありませんし、国内訴訟案件についても訴訟代理人は外部の法律事務所にアウトソースしますので、 弁護士資格がないと業務が行えないといった事態は生じません。
 ただし、弁護士登録をすることで法律事務所の方や他の企業法務部の方とのつながりができたり、国内訴訟案件について外部の弁護士と協働して書面作成等行う際にこれまでの訴訟実務経験が役立ったりと、業務に間接的に生きてくることはあるように思います。 当社には、現在日本の有資格者として弁護士登録している者は8名いますが、その全員が60期代の若手であり、弁護士登録を業務にどのように生かしていくかは、今後我々有資格者が考え、積極的に発信していかなければならないと感じています。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?


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 プロジェクトの当初から、当事者として主体的に関与できるという点に面白みを感じます。例えばM&Aや新規プロジェクト 立ち上げなどの案件でいえば、法務デューディリジェンスの準備・フォロー、契約書作成といったところだけでなく、企画・論点整理の段階から入り、 関係各部門と知恵を出し合って方針を決定した上、対外的に交渉する場面にまで関与することができるというのは、 企業法務部門の醍醐味です。それに関連して、法的リスクにとどまらず、あらゆるビジネスリスクを考慮した上、 会社全体としてどのように落としどころを見つけるかという幅広い観点から案件を見ることができるのも、面白さを感じる点です。
 また、グローバルに事業展開しているため、世界中の色々な案件に携わることができる点(法務部でも、欧米やアジアのみならず、 南米、アフリカ等の案件を担当し、実際に出張等で行く人も多いです)や、メーカー法務という特性上、研究・開発・調達・生産・マーケティング等 様々な専門的知識・技術を持った人たちとチームになって一緒に仕事ができる点は、非常に刺激的であり、当社の法務部門ならではの 魅力だと思います。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?


 仕事の面白さの裏返しになるのですが、ビジネスに関連する幅広い分野で実務的な専門知識の習得が必要とされることが多いため、 法律以外に学ぶべきことが多い点には苦労しています。例えば、M&A案件等では、会計・税務の知識がないと議論についていけませんし、 市場や商品・サービスに関する知識がないと、建前の法律論に終始し、真に有用な問題解決策を提示できないことがあります。
 また、企業法務ではスピード感が非常に重要であり、特にコンプライアンス問題対応等の業務では、限られた時間の中で正確な事実関係を把握し、 関係各部門とも連携をとりながら的確なダメージコントロールをすることの難しさを日々感じています。


■ 裁判官から企業の法務部門に転身されて、いかがでしたか。


 裁判所も企業の法務部門も、法律論だけではなく、事実を整理して積み重ねていくことが重要であるという部分では、共通点を感じます。 しかし、裁判官は、当然のことながら基本的には当事者が揃える主張なり証拠に対して判断を下すという職責を担うのに対し、 企業法務部門では、まだ何が論点になるのかも分からないような状態から、自ら動いて事実を聞き取り、整理をしていくことが求められるため、 大変さを感じるとともに、やり方次第で案件がどう動くかが大きく変わっていく面白さも同時に感じるところです。また、企業法務部門では、 お客様であったり、取引先であったり、社内の色々な部門であったり、あるいは株主であったりと、様々な利害関係者がいる中で 仕事をすることになるため、どのリスクをどの程度とるべきなのか、自分の出す結論は法律的にはもちろんのこと、 ビジネス的に筋が通っているものなのか等、結論を導き出すに当たり考慮することの幅が広がったように思います。
 入社前に抱いていたイメージと現在の業務との間に、ギャップはあまりありませんでした。ただ、私は、法律的な側面だけでなく、 よりビジネスに近い立場から仕事ができると聞き当社に入社したのですが、想像していた以上に当社の法務部門の仕事は現場のビジネスに近く 、大きな案件では実際の交渉を法務部門が任される機会も多くあること等については、驚きました。


■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?


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 民商法の基本的な知識や、論理的なものの考え方については、業務を行う上での礎となっています。また、各種実務基礎科目では、 具体的な事実を整理して、ポイントとなる事実を拾い出すことの大切さを学びましたが、抽象的な法律論を語るのではなく、 正確な事実関係を迅速に把握し、事実に即して物事を考える姿勢というのは、業務をする中でも重要なことであると感じています。
 また、授業ではありませんが、法科大学院のときに共に学び、現在各分野で活躍している仲間とは、今でもよく集まってお互いの仕事や キャリアについて情報交換をすることも多く、そこで培った人脈というのは一生ものだと感じています。
 法科大学院には、企業法務に興味がある方に向けた、ビジネスに関する基礎的知識を網羅的に学べるような授業やプログラムがあっても よいのではないかと思います。これは自己反省を含みますが、特に法学系のバックグラウンドのみをもって就労経験なく法科大学院に 入学された方は、そもそも企業活動を把握する前提として必要な知識(例えば、ビジネスや経済に関する社会の動きや、 基本的な財務・会計知識等)がない、という方も多いのではないかと思います。現在はエクスターンシップで企業の法務部を経験される方も いらっしゃると聞いていますが、それらは経済社会の一員としての心構えを持つことのできるとても良い機会なのではないかと思います。


■ 5年後や10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 当社の法務部では、M&A等のビジネスデベロップメント案件であれコンプライアンス問題対応等をはじめとしたリスク管理案件であれ、 実践的な企画立案・実行能力と実務的な問題解決能力を備え、法務という枠を超えて活躍できる、優秀なビジネスパーソンに成長して いくことが求められています。そのために、法務に関する知識だけでなく、ビジネスに関する知識や会社の事業・商品・サービス等に関する知識・ 経験を積極的に身につけたいと思いますし、また、現場に近い国内外の事業所等で幅広い経験を積むことも有益と考えています。 そして、いずれはコマツグループの法務機能のマネジメントに携わり、日々めまぐるしく変化する経済社会の中で、 会社をいかに発展させ、事業を通じて社会に寄与するかという大きな視点で業務に携わることができるようになればと考えています。


■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 インハウスといっても、業界や企業によって、どのような業務を行うか、法務部門に対してどのような役割が求められているかは様々です。 企業法務部門の業務にやりがいを感じられるかどうかは、その業界や、その会社のビジネスモデル・商品・サービス等に興味が持てるかどうかが 非常に重要になってくると思います。色々な業界、会社にアンテナを張り、その会社の一員になりたいと思える会社でインハウスになられることを お勧めします。


ありがとうございました。さらなるご活躍、期待しています。

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