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『インハウスで活躍する』 第8回 堀籠 雄君(SCSK株式会社)

2014.09.10


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、 インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。 インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、 先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


 第8回は、SCSK株式会社法務部の堀籠 雄さん(2006年度修了)にお願いしました。 堀籠さんは、現在法務課長として活躍されています。この連載で課長職の方にご登場願うのは初めてとなりますので、 管理職のお仕事についても伺いました。皆さんが企業に入られた際の将来のキャリアを考える上で、大変参考になると思います。



■ 本塾法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。

堀籠さん(400x267).jpg

 未修1期として修了後、2回目の受験で司法試験に合格し、千葉で司法修習の後、 ある弁護士法人の地方支部で、弁護士としてのキャリアをスタートしました。 そこで1年3ヶ月ほど勤務した後、株式会社CSKに社内弁護士として入社しましたが、 その半年後に同社の合併により、SCSK株式会社となりました。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。 


 当社は、住商情報システム株式会社と株式会社CSKの合併により誕生した「グローバルITサービスカンパニー」ですが、 法務部は、コーポレート法務課、コンプライアンス法務課と、法務1課・法務2課の4課体制をとっています。 私は、このうち、コーポレート法務課の課長をしています。当課は、株主総会・取締役会の運営、 社内の決裁権限や規則の企画・運営、インサイダー取引防止などを扱っています。 また、子会社等の企業再編や事業譲渡案件等も当課の担当です。その他、当社の社内弁護士は今のところ私だけですので、 社内各部署からさまざまな法律相談を受けますし、訴訟の代理人は外部の弁護士にお願いしますが、そのお手伝いもしています。
 管理職としての業務も多いので、それらを処理しつつ、企画立案系の仕事をしていると、あっという間に一日が過ぎるという感じです。


■ 堀籠さんは、現在、課長職と伺いましたが、管理職のお仕事というのはどのようなものでしょうか。 また、いわゆるプレイイング・マネージャーとして、実務も担当されていると思いますが、 管理職としてのお仕事との兼ね合いなどもお聞かせねがえませんか。


 管理職になると、期毎の目標策定と管理、部下の管理、予算・経費の管理などさまざまな管理業務が増えますし、 各種の会議の時間も増えます。また、部下教育も大きな仕事です。 しかし、法務部門において純粋なプレーヤーであろうとすれば、第三者的なアドバイザーに過ぎず、 「インハウス」である意味がありません。組織において一定のポジションを占めるのであれば、 これらの仕事を避けるわけにはいきません。他方、部下をもてば、プレーヤーとしての自分の仕事を、 部下にどんどん委ねていくことも可能なわけですし、それ自体が部下教育にもなります。
  したがって、私の場合、プレーヤーの役割とマネージャーの役割は一体のものと捉えており、 どうバランスを取っていくかという発想は、あまりありません。ただ、ルーティン・ワークはできるだけ効率的に処理して、 よりクリエイティブな仕事に時間を割けるようにすることは課題だと思っています。


弁護士登録はされていますか?


 登録はしています。「権威づけ」というと語弊があるかもしれませんが、社内・社外に対する信用力はやはり大きいと思います。 また、弁護士会の委員会や研修会を通じた情報収集は、役立っています。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?


 現在は、決裁権限や社内規則など会社内部的な制度についての企画が、自分の業務の半分以上を占めています。 会社における業務の進め方をあまりご存じない学生さん達のために少し補足しますと、 会社法上は、業務執行の決定は取締役会が行い、特定の事項以外は取締役に委任できることとされていますが、 会社の意思決定をすべて取締役会または取締役が行うことは不可能ですので、実際は、従業員に権限を委譲します。 その際、100億円の取引と100万円の取引では、あるいは、不動産を購入するのと備品を購入するのとでは、 当然、判断者が変わるはずです。このように、金額や性質によって権限者を定めて一覧表にしておくのが通常で、 これを「決裁権限表」とか「職務権限表」と呼んでいます。また、この決裁権限に関するルールも一例ですが、ほとんどの会社は、 内部統制的な観点や、業務の標準化の観点より、会社の従業員が遵守すべき会社独自の規則を制定しており、これが「社内規則」です。
 つまり、決裁権限や社内規則は、コンプライアンスやガバナンスを具体的な形で 会社の全体に浸透させるための制度であり、言うなれば会社における立法を担っている訳で、創造性の発揮しがいがあるところです。
 また、事業譲渡案件から、労務関係、社宅の賃貸借といった事案まで、会社に関する限り幅広い分野を扱えるのも面白いですね。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?


 社内的な制度の企画については、面白さと裏腹になりますが、法令や判例がある訳ではなく、 法律家としてのアドバンテージが必ずしも活かせません。また望ましい制度だと思って自分の案を出しても、 従来のやり方に慣れている従業員には、理解されなかったり、なかなか普及しなかったり、 趣旨を潜脱するような形で利用されそうになったりといったこともあり、苦労するところではあります。
 また、せっかく要件事実論などの知識をもっているのですから、 契約関係や訴訟関係の業務にもう少し体力を振り向けられるように工夫をしなければと、思っています。


堀籠さん (300x220).jpg

■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?


 先ず、慶應義塾大学法科大学院の実践的な教育で涵養される「ものの考え方」は、ビジネスにも必ず役立ちます。 リスクシナリオを想定して、とれるリスクなのか、とってはいけないリスクなのかを判断すること、 さまざまな対立する利害を調整し落としどころを見つけること、これらはビジネスパーソンにとっては必須の能力ですが、 判例における裁判所の判断過程、利益衡量や条文解釈のテクニックなどは、その範例となるものです。
 また、各種の専門的・先端的な科目も非常に有用です。私は、受験時の選択科目は国際公法だったのですが、 知財法や経済法科目も履修しました。実際に仕事で必要になったときに調査する際、基本的な考え方を知っておくと、 とても効率的にできます。EU法WPも履修していました。現在の業務では頻繁に使うことはありませんが、 当社も欧州に子会社を有していますので、この知識が役立つ機会もあります。在学中は、受験科目が最優先になり、 あれもこれもという訳にはいかないでしょうが、折角の貴重な機会ですので、幅広く履修することをおすすめします。
 そして、法科大学院でできる人脈も貴重な宝です。プライベートな交流はもちろんのこと、他社の法務部に勤務されている同級生にヒアリングをしたりして、業務を行ううえでの情報収集にも活用させていただいています。


■ 5年後や10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


 私の場合、かなり歳をとってから弁護士になったので、もはや将来の夢を語るような年齢でもありませんが、 今後できることなら、ジェネラル・カウンセルとかCLO(Chief Legal Officer)のような形で、 法務をベースとしつつ経営にコミットしていく立場に立ちたいですね。


■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。


 インハウスローヤーはあくまでもサラリーマンです。組織人としての協調性や忍耐力が求められます。 外部の弁護士のように「先生」と呼ばれる立場 ではないということは、よく自覚すべきだと思います。 (私の場合は、法科大学院に入学する前、10年以上も銀行で働いていましたので、 そうしたことに違和感や抵抗感はなかったのですが、それでも、社内でのコミュニケーションには苦労することもあります。)
 しかし一方で、法律家として高い専門性が期待されますし、重大なリスクについては、上司や経営陣に対しても、声を挙げなければなりません。
 そのような意味では、インハウスローヤーとはかなり微妙な立場であって、難しい面があるかもしれませんが、高い矜持をもって仕事をして下さい。ご活躍を願っています。


ありがとうございました。皆さんのさらなるご活躍、期待しています。

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