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『インハウスで活躍する』 第3回 大舘薫君(KDDI株式会社)

2014.05.15


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


第3回は、KDDI株式会社法務部で活躍されている、大舘 薫さん(2007年度修了)にお願いしました。

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本塾法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。

 私は、もともと理系の出身で、理学部・理学系大学院を修了後、通信メーカーで開発業務を行っていました。その中で、特許関連の業務に携わったり、会社の仕組みを学んだりなどするうちに、法律に興味を覚えるようになり、"手に職をつけたい"との意識もあって、慶應LSの未修コースに飛び込みました。最初は債権者と債務者の区別もつかず、LS初年度は特に苦労した記憶があります。2008年にLSを修了した後、司法試験を受験、東京での1年間の修習を経て、2009年12月当社に中途入社しました。

 

■ 現在の業務の概要を教えて下さい。 

 
2009年の入社時から法務部で勤務しておりますが、当社の法務部では、グループ会社を含む全社から法的な検討依頼を受けこれに回答するほか、人事案件を含む訴訟・紛争サポートからM&A案件、新規ビジネスの立ち上げに係る検討などのプロジェクト案件対応まで様々な業務を行っています。検討依頼には、開発委託契約、アプリ利用規約等の契約書審査から、個人情報保護法、独占禁止法、景品表示法、消費者保護のための各種の法律に関する対応の検討依頼まで幅広く存在します。私も諸々の案件を担当していますが、最近では若手の指導も行っています。
 また、当社では、知的財産権に関する検討は知的財産室が、株主総会関連業務は総務部が、監督官庁対応は渉外部がそれぞれ実施していますが、法務部では、状況に応じこれらの部門と必要な連携を行い協同して対応を行っています。
 さらに、当社では各事業本部に当該本部内での法務マターを取り纏める部署が存在しているため、これらの部署とも積極的に情報共有して全社の法的活動の要諦を理解するように努めつつ、業務を進める施策(いわゆる部門別制)も特に昨年から意識的に実施しています。
 なお、当社では、毎年夏期に2週間ほどエクスターンを実施しており、参加された学生さんには実際に社内から寄せられている法務検討依頼案件を2件以上担当してもらい、依頼部門へのヒアリングから回答まで経験してもらっています。私も学生さんの指導を行っていますが、リアルな利害関係に直面するビジネス部門からの問い合わせに直接対応することは緊張感を伴うものと思われる中、いずれの学生さんにも大変熱心に取り組んでいただいております。ちなみに、当社のエクスターンには複数のLSから参加がありますので、在学中に他のLSの学生さんと交流するきっかけ作りの場にもなっているようで好評です。

 

弁護士登録はされていますか? 業務にどのように関係していますか?

 
入社当初から弁護士登録はしておりますが、弁護士資格が業務で必要とされた案件の数は数件です。その意味では、法務部での通常業務に登録の有無が直接関わることは少ないですが、弁護士登録に伴う義務としての公益活動(各種委員会)への参加は、実務分野の先端動向を知って社内で発信するべき法改正情報を掴むきっかけを得たり、または自分で勉強をするきっかけになったりするなど間接的な効果があると考えます。
 私も、公益活動で所属弁護士会の委員会(金融商品取引法研究部会)に参加していますが、専門分野の第一線で活躍されている先生方の実務のお話を伺えることは、大変よい刺激になっています。当社には、弁護士有資格者が9名おり(LS修了生は7名で、慶應LS修了生は私を含めて2名です。)、そのうち7名が法務部に勤務し、それぞれがさまざまな委員会活動に参加していますが、委員会参加は、日常業務に新しい視点を与える意味でもよい機会にとなっているようです。
 一方で、弁護士資格が必要とされた業務の例を挙げさせていただくと、会社代理人として債権回収を担当した案件(財産調査から保全、訴訟、執行まで一連の手続きを実行)や、法務(登記手続き)や捜査機関などの官公庁対応などがあります。いずれも試行錯誤の連続で手間はかかりましたが、反面、手続きの主導者であるとの認識のもとに、情報調査スキルや度胸を鍛えることができたため、とてもよい経験になりました。

 

■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?

 
社内の法務部では、ビジネスの切り取られた局面について法的な専門的な検討を行うというより、ビジネス誕生の検討段階から終結段階、その紛争対応までのさまざまな局面で息長く関わることになります。例えば、M&A案件で関わった出資先企業との業務委託契約書を数か月後に事業部門からの依頼で審査することもよくあります。会社の活動が相互につながりがあることをよく感じます。
 企業内法務は予防法務がメインとなりますが、その正解は1つではありません。それ故、会社の経営戦略や事業展開状況、スタンス、社会の状況を日頃どれだけ自分で咀嚼して、法務サポートに活かせるかが重要ですし、何が正しいか、何が会社として採るべき方針かを常に自省し、次に活かしてゆくプロセスこそが、会社としてのあるべき姿を形づくってゆくものだと思います。
 その意味で、自分が関わった案件が無事契約締結に至り、ニュースリリースされるなどした場合ももちろんうれしいですが、そこまで行かなくても、社内の依頼部門と長期に亘り検討を重ね、会社の方針を考えながら、1つ1つの手続きを自省しつつ進めてきた案件が終結を迎えた場合は、ほっとするとともに、会社の行為の一部を担ったという自負と達成感が得られます。これらはインハウスならではと思います。
 さらに、企業内では依頼部門との会話の中で得た事実関係の中から、法的問題のあたりを付け、必要な事実の抽出を行い、検討結果を以って人を説得しなければならない場面が多くあります。コミュニケーション力や説得力が問われるわけですが、このように全人格が現れる人間力のようなものを磨いてゆけること、また企業人としてのバランス感覚を磨いてゆけることも興味深い点だと思います。

 

■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?

 会社の中でビジネス遂行者の一員として案件に関わっているつもりですが、やはり法的な一部の側面しか理解できていないことも多く、会社の各事業の展開に追いつくのには相応の気力と体力が要るなと最近つくづく実感しています。

 

■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?

 
日常業務の中では、LSで学んだ民商法の知識や考え方を応用して、あるいは法的三段論法を用いて、具体的な事案を検討することが非常に多いです。私は、もともと理系の学部出身であり前職も技術系として勤務していたので、法律に関することは法科大学院でほぼ初めて学んだわけですが、慶應LSでは、各法分野の基礎知識から、法的三段論法、条文操作まで本当に丁寧に指導してもらえたと思います。
 会社法の条文を毎回引くといったような作業も含め、LSの授業の予習で必要とされる作業は、必ず後に役に立つスキルなり技術なりになると思いますので学生の皆さんにも是非手間を惜しまずに実践していただければと思います。
 また、LSの授業での事案検討では、必ず事案の結論に関する"坐り"を自ら検討するようにするのがよいと思います。実務に入ると、客観的に"坐り"を検討しているような余裕はあまりなく、事実関係も複雑で評価しがたいものが多いです。何が結論として望ましいのか、という自分なりの評価や判断軸形成の訓練は是非LS時代から開始されることをお勧めします。

 

■ 5年後または10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。

 
法務に限らず、関連分野の知識も身につけ、例えばM&A戦略などを企画する部門で経験を積むなどして、企業活動について理解を深め、ゆくゆくは会社の方向性を検討するような職務に就きたいと思っています。

 

■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。

 
現状では、一言で"インハウス"と言っても、会社毎に会社から期待される役割も随分と異なり、実際に担当している業務も違いがあると思います。商社などインハウス活用の歴史が長い企業を除けば、企業側でも有資格者の活用方法については、様子を見ながら検討している、いわば模索中の状態にあると思います。
 逆にインハウスの側からすれば、常に何ができて何ができないのかを試されている心境になることもあるかもしれませんが、どんな場面でも自分が今までに培ってきたもので対応するしかありません。
 何でも知っている人なんていませんし、周囲の協力を得て組織としての力を発揮してゆくのが企業です。そこで、周囲の理解をとりつけたり、説得できたりするのは、日頃の信頼関係や、状況に応じた対応をとれる柔軟さがあってのことだと思います。
 その意味で、法曹として、企業人として成長してゆくには、素直であること、また、周囲に感謝する気持ちを忘れず、自分にできることを惜しまず行う姿勢が大事なのではと改めて思っています。法律は説得の学問でありスキルですが、人対人で成立するものであることは忘れてはならない原点です。
 学生の皆さんの将来の可能性は無限にありますが、是非、法律に関する専門的知見を磨く一方で、奢ることなく、人としての魅力を磨いていってほしいと思います。

 

どうもありがとうございました。これからのさらなるご活躍、期待しています。

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