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『インハウスで活躍する』 第7回 島村若子君、武藤信彦君(株式会社東芝)

2014.08.06


 企業や官庁等の法務部門で働く法科大学院修了生が増えており、組織内法務、いわゆるインハウスは、第4の法曹として注目を集めています。その一方で、組織内の仕事であるだけに、インハウスがどんな仕事か分かりにくいのも事実です。在学生や修了生の皆さんも、将来の進路として興味はあるけど、よく分からない、と思っている方が多いのではないでしょうか。
 
そこで、インハウスとして活躍する先輩達に、皆さんにとって関心の高い質問事項をお送りして答えてもらいました。インハウスの実際がよく分かると思います。今後、このwebサイトで、先輩たちの活躍の様子を定期的にご紹介していきたいと思います。


第7回は、株式会社東芝の法務部門で活躍されている、島村若子さん(2005年度修了)と武藤信彦さん(2005年度修了)にお願いしました。 同じ会社の法務部門ですが、大きな組織ですので、担当される業務もかなり異なることがよく分かると思います。また、皆さんの関心の高いローテーション(社内異動)、お二人とも経験されているとのことなので、その点についても質問しました。 さらに、島村さんには昨年企業内リーガルセクションワークショップ・プログラム を一部お手伝い願いましたのでその感想を、武藤さんには、留学された米国ロースクールの印象を、お答え願いました。



■ 本塾法科大学院修了後、今の会社へ就職されるまでを簡単に教えて下さい。


[島村]

 2006年に本塾法科大学院を修了した後、外資系金融機関の法務部門にてパラリーガルとして半年間勤務した後、2008年に株式会社東芝に入社しました。

 私が就職活動をした時期はまだ法科大学院の認知度も低く採用も活発ではありませんでしたが、当社 のように新卒の秋採用を実施していた会社や中途採用を募集していた会社など、枠は狭めずに就職活動 をしました。自分の興味のあった業界という点に加えて、法務部門の土台がしっかりしている会社=早 くから海外に進出している業種と考え、電機・自動車などのメーカー/商社を中心に応募しました。


[武藤]

 2006年に本塾法科大学院を修了し、同年に株式会社東芝に入社しました。


■ 現在の業務の概要を教えて下さい。 


[島村]

 弊社は、7つの社内カンパニーと3つの独立会社の合計10の事業領域に分かれた形で事業を行っており、その事業を行っている10の事業領域すべてに法務担当、法務部門を設置しています。そして、これらの法務担当、法務部門を適宜支援し、あるいは会社全体に係わるような案件を担当する法務部門として、コーポレート法務部を設置しており、私は入社以来、このコーポレート法務部に所属しています。

 入社後は集合研修、工場実習、販売実習などの新入社員研修を受けた後、約6年間はコーポレート法務部の中の国内法務を扱うグループに所属し、国内訴訟や国内の独禁法案件、コンプライアンス、法務教育、契約検討、許認可業務など多岐にわたる業務を担当しました。現在は、同じくコーポレート法務部の中にある、M&Aなどの事業提携や海外の独禁法関連訴訟を扱う提携法務グループに所属しています。


[武藤]

 現在はデジタルプロダクツ(テレビ・パソコン等)及びそれにかかる新規サービスにかかわる法務業務を行っています。新規サービスをどのような構造のもと実現していくかを事業部門の人たちと詰めて、そのプランをもとに国内外のベンダーとの関連契約のドラフティング及び契約交渉を行ったり、 サービスに適用のある法的事項の分析・検討等を行ったりするのが主な業務です。

 弊社ではグループ全体に係る法務を行う法務部門(コーポレート法務部)と各事業部門にそれぞれ法務部門(カンパニー法務部)があり、それぞれをローテーションすることが一般的です。

 私も、入社してからコーポレート部門に5年ほどいて、国内外のM&A業務及び海外競争法事案に関する業務を行い、会社の制度で留学後、現在のカンパニー法務部へとローテーションしてきました。コーポレート法務部門在籍中は、 M&A専門の法務グループに所属し、取引ストラクチャーの構築やデュー・ディリジェンス対応、国内外の事業会社・ファンド等との契約交渉を行いました。また、海外競争法事案では、デポジション(証言録取)等のディスカバリーを含む米国集団訴訟対応を行いました。 コーポレート法務部門では高度かつ複雑な案件が多いこともあり、多種多様な社内外の専門家と協力して仕事にあたることが多かったです。


■ 授業で学生さん達と話していると、ローテーション(社内異動)について質問されることがしばしばあります。御社の場合は、基本的には法務部門間での異動ということになるのでしょうか。それとも、総務部やコンプライアンス部など、法律との関係が強い部門まで含むのでしょうか。全然違う部門というのもあり得ますか。また、ご自身はローテーションについてどのように考えておられますか。


[島村]

 弊社の場合には、基本的には法務部門間での異動ということになります。コンプライアンスについては法務部門にて取り扱っていますが、法律との関係が近い人事部門(労働法関連)、知財部門(知的財産法関連)や営業などの全く違う部門への異動というのはありません。

 就職活動をしているときは、他部門への異動があるよりも法務部門内で専門性を磨いていく方が良いと考えていましたが、実際に仕事をしてみると、法律の知識だけでは対応できない内容も多く、財務・総務など他の分野へのローテーションがあるというのも仕事内容や会社の事業を深く理解できて面白いのではないかと個人的には感じています。


[武藤]

 自分から希望しない限りは、法務部門間での異動をするということがほとんどだと思います。ちなみに弊社では法務部門はコンプライアンスも担います。

 ローテーションについては、業務経験を深めるうえでとてもよいものだと思っています。弊社の場合、カンパニーごとに事業内容がかなり異なりますので、 それぞれで求められるスキルもおのずと変わってきます。ローテーションを通じて色々なビジネスの中に身を置くことは、面白いですし、また自分自身のビジネスパーソンとしての幅を広げてくれるものと思います。


(武藤さんに)留学に関して少し伺えますか?


[武藤]

 私は、シカゴ大学ロースクール(LL.M.=Master of Laws課程)に留学しました。シカゴ大学を選んだ理由は、本塾法科大学院で経済法に興味をもち、仕事でも独禁法にかかわることが多かったため、シカゴ学派の総本山に行ってみたかったからです。 日米のロースクールを比べてみると、特に近頃は日本では司法試験のための大学院というイメージがある一方、米国では徹頭徹尾think like a lawyer、つまり法律家としての考え方を学ぶところというイメージがあります。 また、教員の学問的バックグラウンドの幅広さにも驚きました。これは米国に法学部がないことにも関連すると思いますが、経済学、哲学等の博士号を有する教員が複数人いて授業内容も「法律的」ではないという意味でとても面白かったです。


■ どんなところに仕事の面白さを感じますか?


[島村]

 弊社は、半導体事業などの小さな部品を扱う事業から、原子力・火力・水力などの発電事業や上下水道の電気システムなどの社会インフラシステム事業、身近なところではパソコン・テレビや白物家電などの生活家電事業、医療機器などのヘルスケア事業に至るまで、非常に幅広い事業を展開しています。それぞれの事業体がその分野で収益を上げていくというミッションを持っていますが、それは我々法務部門のミッションでもあります。私自身も入社するまでそうであったように、企業の法務担当者がそのようなミッションを持っているのか疑問に思う方がいるかもしれませんが、法務部門としては、営業・技術・開発・財務・人事など社内にいる他の専門分野を持つ様々な人と一緒になって、如何に法的に安定した環境で収益を上げて事業を成長させていくかというミッションを担っているのであって、そこに仕事の面白さを感じます。


[武藤]

 弊社は総合電機メーカーですので、事業領域が多岐にわたっています。事業領域が多岐にわたっているということは、それぞれの事業部門が新たな技術やサービスを生み出すときに、それをどうやって世の中に出していくかについて、 技術部門、営業部門、企画部門、そして法務部門等が知恵を出し合って、最適解を目指す過程が毎回あるということです。 そういった過程を経て新たなサービスが世に出たり、M&Aが無事クロージングを迎えたりしたときには、仕事をやっている充実感を感じます。


■ 逆に、お仕事で苦労されているのはどんな点ですか?


[島村]

 仕事の面白さを感じる部分でもあるのですが、ビジネスを理解した上で、事実を把握し、判断をしていくこと、事業サイドと共に結論を出していくことに難しさを感じます。例えば、契約書の検討依頼を受けた場合、この条項は当社にとって有利だから不利だから、 法律に照らし合わせるとこういう結論になるから、と文面上の表現を修正していくことは、参考書を見ながら行うことはできるものの、これでは単なる文書屋さんにすぎません。事業サイドに、この契約書で何を実現したいのかを聞き、分からないところは確認し、 ビジネスを理解した上で、ここは譲れない部分、ここは相手の提案を受けて良い部分というのを共に考えて、棲み分けをしながら、最終的には契約書の文言に落とし込んでいく、この一連の作業を的確にスピード感を持って行っていく必要があります。

 契約検討の場面に限りませんが、事業サイドから相談を受ける際には、重要なポイントが実は隠れていることも多々あり、丁寧に話を聞き、事実関係を整理していくことが法務担当者としては重要です。机上の空論に終始してしまわないためにも、 「素朴な疑問ですが、...とはどういうことですか?」と一つ一つ確認してビジネスを理解することが法務担当者としては一番大事なことであって、難しい部分でもあると感じています。


[武藤]

 法務の仕事は、どのような場合でも正確な事実関係を把握することが重要だと思うのですが、正確な事実関係を把握するには事業そのものの目指すところも具体的かつ正確に把握しなくてはならないので、なかなか苦労します。しかしわからないときは、色々な人の話をよく聞き、考え、また聞き直すことの繰り返しでどうにか仕事をやっています。


■ 本塾法科大学院で学んだことを、仕事の中でどのように活かしていますか? また、法科大学院教育には何を望みますか?


[島村]

 法科大学院の授業を通して、大量の文献や判例を読み込み、事実の中から判例が何を考慮して結論を導くのか、という思考プロセスを学びました。 現実に仕事をしていく上では、簡単に事実が拾えて、法律にあてはめられて、すぐに結論が出るということはないものの、このような思考プロセスは非常に役立っていると思います。

 印象に残っている授業は、渉外法務BP/WPです。学部生の頃から、~法というように縦割りで勉強をしていた科目が、実務においてどのような形で発展していくのかを垣間見ることができ、幅を広げられたように思います。 WPの一環で、複数の企業を訪問する機会があり、企業の法務担当者として働く人から話を聞く機会が在学中にあったことも、将来の進路を考える上で非常に参考になりました。


[武藤]

 法科大学院を卒業してだいぶ経つので、あまり詳細に授業の内容を覚えているわけではありませんが、経済法WPは記憶に残っています。 学部時代に単位合わせのためだけにとった独禁法は全く面白いと感じませんでしたが、このWPの中で独禁法の基礎概念にかかわる事案を丹念に読み、 なぜ一見同一に見える事案が独禁法的に別の評価を受けるか考える訓練をしたことは、有意義だったと思います。こういう分析的な見方というのは、今の仕事でも活きていると思います。


■ 5年後や10年後のご自身の将来像をお聞かせ下さい。


[島村]

 入社以来、初めての人事異動を経験し、携わる業務が国内法務から提携法務へと最近変わったばかりですので、 目下の目標は割り振られる仕事をきちんとこなしていくことに尽きますが、将来の目標としては、グローバルな視点を持ち、事業部門を的確に支えると共に、事業推進に主体的に携わることのできる法務担当者になりたいと思っています。そのためには、法律的な知識に加えて、社内、交渉の相手方、弁護士等と対等に折衝するコミュニケーション能力や弁護士等の社外専門家の最大限のパフォーマンスを引き出す能力も必要と感じており、日々の仕事に着実に取り組んでいきながら、経験を積んでいけたらと思っています。


[武藤]

 あまり明確なものはありませんが、新たな事業部門を担当しているか、経営企画部門などで、より広い観点から会社の事業活動をサポートするのも面白いのではと思っています。


■ 島村さんには、昨年度の企業内リーガルセクションワークショップ・プログラム に関して、ゲストとして話してもらったり、企業見学を引き受けてもらったりしましたが、そういった機会を通じて、企業内法務を志す現役の学生さんたちと交流して、感じられたことや、アドバイスなどありますか?


[島村]

 本塾法科大学院では、私が在学していたころから、様々な授業が展開されていましたが、企業内リーガルセクションワークショップ・プログラムを始めとして、現在ではさらにバラエティに富んだ授業が展開されていると聞いています。これは偏に、社会のニーズの多様化が進んでいることの現れだと感じていますが、学生の方々と接していても、視野を広く持ち、様々な分野に興味を持ちながら、法科大学院での学習に真摯に取り組んでいる様子を感じ、心強く感じました。


■ 最後に、インハウスを志す後輩たちへのメッセージをお願いします。


[島村]

 インハウスといっても、業界や個々の企業・組織の中で様々な位置づけがあるものと思いますが、法律知識を手段としてその企業が遂行する事業を支援することを面白いと思えるか、がインハウスとして働いていく上では、重要なことだと思います。

 色々な選択肢がある中では、悩みや心配も多いとは思いますが、第一線で活躍する実務家・研究者教員の方々や意識の高い仲間に出会える本塾法科大学院は、そのたくさんの選択肢から自分が納得できるものを見つけていくことのできる場所、そのきっかけを与えてくれる場所だと思います。是非、本塾法科大学院での2年間ないし3年間を存分に活用し、培った専門的な法律知識や経験を、自分としてどのように活かしていきたいかを考えて、目指す目標に向けて頑張ってください。


[武藤]

  インハウスといってもそれぞれの会社において行うことは千差万別だと思います。しかし、どのような会社であっても共通することがあるとすれば、それは自分がビジネスパーソンだという意識を強く持つ必要があるということではないでしょうか。ビジネスパーソンとして、会社の中にいるということは、法律評論家としてではなくチームの一員として事業目標の達成に向けて頑張るということです。ロースクールで習得したthink like a lawyerの思考方法を一つの軸に、想像したこともないようなことを創造していく楽しさを経験してみたい、受動的にではなく能動的に社会とかかわりたいという人には、インハウスも一つの良い選択肢ではないかと思います。


ありがとうございました。皆さんのさらなるご活躍、期待しています。

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